男は力を手に入れた(16/19)
忘れていました。
彼は、狂っていたことを。
盲目的に、私を愛していたことを。
「やっと、見つけた…」
それは、私のささやかな、けれど、幸せな生活を壊す音。
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いつもの日常でした。
緩やかに、森の動物たちと過ごす日々は、記憶から彼のことを薄れさせてくださいました。
たまに来る密猟者や、私の容姿を狙ってくる方々を殺したりしていましたが、“念”を使うことによって思い出すクルタの一族に、私は小さな喜びを見出していました。
彼等を護るために、習得した“念”は、私の容姿と同じように今では彼等を思い出す唯一の手がかり。
幸せ、だったのです。
たとえ、慕っていた方と結ばれなくとも。
私には、あの世界の記憶さえあれば、生きていけたのです。
幸せに。
『な、んで…、?』
頭がついていけません。
この方は、誰、?
禍々しい気配。
姿は確かにあの方。
けれど、気配は、オーラは、
「もう離さない…」
近付いてくる。
それにガンガンと頭の中で警報が鳴り響く。
捕まったらダメ。
頭で考えるよりも早く、私はその場から逃げていました。
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