■ And I violated a taboo.
今日は灰音も、草芽くんも、緑香さんも用事で家にいない。
いるのは、私と樹さんだけ。
『樹さんーー、』
ソファでうたた寝している樹さんにそっと近付く。
綺麗な寝顔。
そっと、彼の唇に指を這わす。
息遣いがすごく扇情的で、ドキドキと胸が高鳴る。
胸が苦しいくらいに締め付けられて、思わず涙が零れる。
なんで、私はこの人に女として愛してもらえないんだろう。
この人以外の男の人から愛されたって、少しも嬉しくない。
いつでも渇望するのは、この人からの愛。
こんなに愛してるのに、物語の筋書き通りにしか、世界は動かないの?
この人に愛されるためなら、純潔の身体も、美しさも道徳心だっていらない。
貴方の為なら、世界だって捨ててみせる。
だから、
私を愛して。
彼の胸に手をそえ、そっと顔を近付ける。
私と彼の距離がゼロになった時、彼の瞳が開かれた。
「白雪……、?」
私のキスに驚いて目を見開く樹さん。
「え?な、どうしたんだ、っ、」
『んっ……』
何か言いたげな彼の言葉を自分の唇で塞ぐ
壊れてしまえ
何かが私にそう囁いたから、私は…
『樹さん、いつきさん、愛してる。』
「……そりゃ、僕も愛してるよ。僕の可愛い子どもだから。」
『っ、』
違う。
私の“愛してる”はそういうのじゃないの。
彼の首に手を回して、深く深くキスをする。私がいなければ、息が出来なくなってしまえばいいのに。
私以外の人を、愛さないで。
『ん…、』
「は…っ、白雪っ…、」
クチュリ、彼の唾液と私の唾液が混ざる。
初めてのキス。
誰にも捧げたことのなかった、最初で最後のキス。
ドキドキと心臓が逸る。
彼と一つになれたら、どんなに気持ちいいだろう。
どんなに、心が晴れるだろう。
「っ、白雪!やめるんだ!!」
びくりと身体が震える。
今まで聞いたことのない、樹さんの怒鳴り声。
『ぁ…あ……』
私は、禁忌を犯してしまった。