■ Please watch me as a woman.


二人分の息づかいが部屋に響く。

生産性のない行為。

男は愛おしそうに女の名前を呼ぶが、女は答えない。
やがて、男が果てた。
瞬間、女は男を押し退けさっさと着替える。


「お、おい、」
『貴方、つまらない。』


それだけ言うと、女はすぐさまその場を立ち去った。





玄関の前に立ち竦む。
この扉を開けたら私はどうなるんだろう。
あの人と、あの人が一緒にいる姿を堪えられるんだろうか。

……きっと、堪えられない。

だって、私は好きだから。
愛してるから。


「あれ?白雪、帰ってきたの?」
『ぁ…、樹さん…、』
「こんなところにいたら、風邪引くよ。中に入ろう。」
『はい…、』


自分の養父のことを。


転生。それは自分の生を終え、また違う自分に生まれ変わること。

私はそれを経験した。

初めは、また新しい人生を与えられたことに安堵した。
自分はまだ自分でいられるんだって。
世界に必要とされてるんだって。

でも、そうじゃなかった。
私は父親の不倫相手の子供。
産みの母親は死に、実の父親と義理の母親から向けられる目は憎悪一色。


そして私は、捨てられた。


雪が降る寒い冬の夜。
私は命も、存在も、否定され知らない場所に捨てられた。

それを拾ったのが樹さん。
今の養父だった。

樹さんは笑いもしない私を死なせまいと、必死に育ててくれた。実の子のように愛してくれた。

私も、生きる気力が湧いた。

あぁ、私は樹さんに必要とされてるんだって、愛されているんだって、

ずっとずっと樹さんを見てきた。
ここが漫画の世界だって、気付いても、樹さんだけを。

でも、彼は私を子どもとしか見ていなくて、

私の識っている世界と同じように、彼は奥さんをもらった。
可愛らしい、愛らしい奥さん。
一児の母には見えない若々しい方。


私が誰と寝ようが、何人と寝ようが、樹さんは私を女として扱ってくれない。
そんなこと分かってる。

けれど、愛されたくて。
子どもとしてじゃない。一人の女として彼に愛されたかった。


私は今日も、樹さんに女として見てほしくて、男の残り香を漂わせながら、家に帰る。


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