目を瞑れば今もあの日のことが鮮明に思い出せる。
あの日、私のすべてが変わった日。
私がノジコに成り代わった。
それは紛れもない事実で、
私のこの青みがかかった灰色のような髪も、目も、ぼてっとした唇も、全部彼女のものだった。
苦しくて、苦しくて、死にたかった。
けど、私がいなかったら、ナミはどうなるの?
それを考えたら死ねなかった。
ずっとずっとずっと悩んでた。苦しかった。
でも貴方が、貴方たちが私の名前を呼んでくれたから。私を愛してくれたから。
私は救われたのです。
でも、未だにわからないの。
彼はなんで私を救おうと必死なの?
私がいる限り、私がアーロンに手を貸してる限り、ココヤシ村にもベルメールさんも無事なのに。
一億ベリーを稼げば、私も村も救えると思ってる。
私を放っといて、あの子は海に出ればいいのに。
哀しい、可哀想な私の大切な弟。
あの日のことも、私のことも忘れて、貴方が幸せになれば、私も幸せでいられるんだよ。
八年前ーーーーー
何故かナミが男の子だったことには驚いたけど、ナミが成長していくにつれて彼は私の識ってるナミそのものになっていった。ただ性別は違うけど。
今日もナミは本屋さんで万引きをしたらしい。
「ベルメールさん、ごめんなさい。この本どうしても欲しかったんだ。」
「まったく…欲しかったらどうして私に言わないの。」
『ナミ、ゲンさんに迷惑かけちゃダメだよ…?』
メッとナミに言い聞かせるようにちょっと怒ったような顔でナミに語りかける。
ナミはバツが悪そうな顔をして答える。
「だって…」
「だってじゃない。多少のヘソクリくらいあるんだから本くらい買ってあげるわよ。」
「………ごめん。」
素直に謝るナミに私は満面の笑みで頭を撫でてた。
すると、ナミは甘えてきてくれるんだからすごく可愛い。私の大好きな弟。
私はこの幸せを感じてただ、笑ってた。
ナミとベルメールさんが喧嘩をした。
ささいなことだった。
その時点で私は気付くべきだったの。
今日があの日だ、ってことを。
気付かなかった私はそうとうの馬鹿。
覚えてたのに、忘れてなかったのに、
ただ私はのんきに笑ってた。
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bkm