かくれんぼ 18


目が覚めると、一番最初に目に入ったのは、雪麗さんの後ろ姿。


『…?せつ、らさん?』
「おや、目が覚めたのかい。」
『は、はい…、』


あれ?私、家の前で倒れてから……、
どうしたんだっけ?

首を傾げていると、雪麗さんが今までのことを教えてくれる。
今までのこと…鯉伴が助けてくれたってことを。

それに、やっぱりちょっとだけ不機嫌になる。

するとガラリと襖が開いて、そちらを見ると、そこには鯉伴の姿。
鯉伴がゆっくりと近付いてくるのが、なんだか怖くて布団を被った。

雪麗さんは、鯉伴と入れ替わりに出て行ってしまった。


「……おい。」


布団をかぶっていると、鯉伴の不機嫌そうな声色。

それにイヤな予感しかしないけど、頑張って反抗を試みる。

私だって、寂しいとか思う気持ちあるもん。
ずっと放置されてた私の気持ちが分かれ馬鹿!


『わ、私!まだ怒ってるんだから!』
「…なにがだ?」
『鯉伴がどこかに行ってたこと!』


馬鹿!と言ってやれば、聞こえたのは鯉伴の呆れたようなため息。

それにイラッときて、かぶっていた布団を取って鯉伴を睨みつける。
でも、それは無理で、何故かお怒り気味の鯉伴が私の視界いっぱいに広がった。


『ひゃっ、』
「あのなァ、なんでオレを信じねぇんだ。」
『…だって。』
「だって、じゃねェよ。」


鯉伴の手が私に伸びてくる。
それに殴られるのかと思って目を潰れば、来たのはあたたかいぬくもりだけ。


「そうか。そうか。名前はさみしかったのか。」
『……』
「ん?」


余裕しゃくしゃくで、私にそんなことを言う鯉伴。

その余裕がちょっとだけムカつく。
けど、

『さみしかった。』
「…は、」
『だって、鯉伴ずっと、どこかに行ってるんだもん。さみしかった。』


ぎゅっと、鯉伴の着物の裾を握って、鯉伴を見上げる。

すると、鯉伴はすごく無表情になる。
やっぱり、私がこんなこと言うなんて気持ち悪かったのかな。


『り、鯉伴?』
「(犯してェ。)」
『……怒ってるの?』
「怒ってねェよ。」


鯉伴が私の額に口付けを落とす。
それがくすぐったくて身をよじれば、鯉伴はいつものような激しい口付けじゃなくて、優しい啄ばむような口付けを落としてくる。


『?珍しいね。』
「あ?」
『んーん、なんでもないや。』


鯉伴に起こして、と言えば、鯉伴が私の背中に手を入れてゆっくりと起こしてくれる。

いつもより優しい鯉伴がくすぐったい。


「そういやぁ、おめぇ…もう寺子屋なんてやめたらどうだい?」
『ヤ、……です。』
「オレと家にいんのがイヤだってか?」
『……どーせ、鯉伴はあんまり帰ってこないくせに。』


ムッと口を尖らせる。

私、知ってるんだから。
鯉伴が遊び人 鯉さんとか言われてるの。


「おめぇがいるなら帰ってくる。」
『…うそつき。』
「……………」


無言で私を睨んでくる鯉伴に、プイとそっぽを向く。

だって、なんか寒気がしたんだもん。
鯉伴、危ない。


『それに…今私が寺子屋やめたら子供たちと会えなくなっちゃうもん。だから、やめないよ。』
「……人間が好きかい?」
『うん。』


くだらないことで笑って、泣いて、怒って、命を慈しむ人間が好き。

人間と妖。
そんなに大差ないと思うの。

だって、私が関わった妖はみんな人間と同じ心を持ってたから。


『…鯉伴は、嫌い?』
「んなわけねぇだろ。」

『!んっ、』


そう呟いたと思ったら、鯉伴は私の首に強く吸い付く。

何分かして離れたと思ったら今度は口付け。


『りは、ん、』
「ちょっと出てくる。」
『ふ?』
「帰ってきたら、覚悟しとけ。」


そう言って私を寝かせると、鯉伴は出て行ってしまった。

出てったあとに、首を見てみると赤い痕。

……変態。


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bkm
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