目が覚めると、一番最初に目に入ったのは、雪麗さんの後ろ姿。
『…?せつ、らさん?』
「おや、目が覚めたのかい。」
『は、はい…、』
あれ?私、家の前で倒れてから……、
どうしたんだっけ?
首を傾げていると、雪麗さんが今までのことを教えてくれる。
今までのこと…鯉伴が助けてくれたってことを。
それに、やっぱりちょっとだけ不機嫌になる。
するとガラリと襖が開いて、そちらを見ると、そこには鯉伴の姿。
鯉伴がゆっくりと近付いてくるのが、なんだか怖くて布団を被った。
雪麗さんは、鯉伴と入れ替わりに出て行ってしまった。
「……おい。」
布団をかぶっていると、鯉伴の不機嫌そうな声色。
それにイヤな予感しかしないけど、頑張って反抗を試みる。
私だって、寂しいとか思う気持ちあるもん。
ずっと放置されてた私の気持ちが分かれ馬鹿!
『わ、私!まだ怒ってるんだから!』
「…なにがだ?」
『鯉伴がどこかに行ってたこと!』
馬鹿!と言ってやれば、聞こえたのは鯉伴の呆れたようなため息。
それにイラッときて、かぶっていた布団を取って鯉伴を睨みつける。
でも、それは無理で、何故かお怒り気味の鯉伴が私の視界いっぱいに広がった。
『ひゃっ、』
「あのなァ、なんでオレを信じねぇんだ。」
『…だって。』
「だって、じゃねェよ。」
鯉伴の手が私に伸びてくる。
それに殴られるのかと思って目を潰れば、来たのはあたたかいぬくもりだけ。
「そうか。そうか。名前はさみしかったのか。」
『……』
「ん?」
余裕しゃくしゃくで、私にそんなことを言う鯉伴。
その余裕がちょっとだけムカつく。
けど、
『さみしかった。』
「…は、」
『だって、鯉伴ずっと、どこかに行ってるんだもん。さみしかった。』
ぎゅっと、鯉伴の着物の裾を握って、鯉伴を見上げる。
すると、鯉伴はすごく無表情になる。
やっぱり、私がこんなこと言うなんて気持ち悪かったのかな。
『り、鯉伴?』
「(犯してェ。)」
『……怒ってるの?』
「怒ってねェよ。」
鯉伴が私の額に口付けを落とす。
それがくすぐったくて身をよじれば、鯉伴はいつものような激しい口付けじゃなくて、優しい啄ばむような口付けを落としてくる。
『?珍しいね。』
「あ?」
『んーん、なんでもないや。』
鯉伴に起こして、と言えば、鯉伴が私の背中に手を入れてゆっくりと起こしてくれる。
いつもより優しい鯉伴がくすぐったい。
「そういやぁ、おめぇ…もう寺子屋なんてやめたらどうだい?」
『ヤ、……です。』
「オレと家にいんのがイヤだってか?」
『……どーせ、鯉伴はあんまり帰ってこないくせに。』
ムッと口を尖らせる。
私、知ってるんだから。
鯉伴が遊び人 鯉さんとか言われてるの。
「おめぇがいるなら帰ってくる。」
『…うそつき。』
「……………」
無言で私を睨んでくる鯉伴に、プイとそっぽを向く。
だって、なんか寒気がしたんだもん。
鯉伴、危ない。
『それに…今私が寺子屋やめたら子供たちと会えなくなっちゃうもん。だから、やめないよ。』
「……人間が好きかい?」
『うん。』
くだらないことで笑って、泣いて、怒って、命を慈しむ人間が好き。
人間と妖。
そんなに大差ないと思うの。
だって、私が関わった妖はみんな人間と同じ心を持ってたから。
『…鯉伴は、嫌い?』
「んなわけねぇだろ。」
『!んっ、』
そう呟いたと思ったら、鯉伴は私の首に強く吸い付く。
何分かして離れたと思ったら今度は口付け。
『りは、ん、』
「ちょっと出てくる。」
『ふ?』
「帰ってきたら、覚悟しとけ。」
そう言って私を寝かせると、鯉伴は出て行ってしまった。
出てったあとに、首を見てみると赤い痕。
……変態。
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bkm