そのまま鯉伴は何処かの家に入り、私を布団の上に落とす。
そして鯉伴は私に覆い被さってきた。
『やだぁっ、』
「………」
私の否定の言葉を聞かずにそのまま事を運ぼうとする鯉伴を必死で止めようと両手で鯉伴を押す。
しかし、その手も頭の上で鯉伴の片手によって纏めあげられ私の行動も意味のないまま鯉伴は私に触れる。
『っ…あっ、やめてってば!やめてっ!なんで、こんなことするの、!やめてよ…っ!』
「…なんで、だと?名前はまだオレの言ってることが理解できてねぇのか。」
『知らない、知らないもんっ!離してっ、』
ボロボロと涙を流しながら鯉伴の言ってることを否定する。
『りっはん、は、私のことなんて好きじゃないもん!鯉伴が、好きなのはっ、わ、私じゃないっ!』
鯉伴が好きなのは山吹乙女なの。
私じゃないもん。
それに鯉伴は新しい人見つけてた。
私じゃない、綺麗な女の人。
ギリリと私の両手を拘束する鯉伴の手が強くなる。
その痛みに顔を顰めながら鯉伴を見れば、睨むように私を見つめる鯉伴がそこにいた。
『、』
「おめぇはオレのことをまだ信じてねぇのか。オレが今までどういう思いでおめぇの側にいたと思ってやがんだ?」
『…知らない。』
「……あぁ、そうか。じゃあ、身体に教えてやるかい?あぁ?!」
そう言いながら鯉伴は私の着物に手をかける。
なんでなんでなんでなんで?
だって鯉伴は綺麗な女の人がいたのに。
『……で、』
「あ?」
『触らないでっ!なんで、だって、鯉伴はもう私じゃない人いるじゃんか!私じゃない、綺麗な女の人…!なんで、なんで私なんかに構うの?」
「はぁ?」
心底意味が分からないとでも言うように私を睨む鯉伴にイライラする。
なんで私が一方的にこんなことされなくちゃいけないの?
鯉伴は私のことなんてどうでもいいくせに。
ボロボロと涙を零しながら鯉伴をキッと睨んで私は叫ぶ。
『っ、触らないでよ!他の女の人触った手なんかで私に触らないでっ!汚い汚い!嘘つき嘘つき!私のことなんて好きじゃなかったくせに!嫌い嫌い嫌いっ!鯉伴なんて大嫌いなんだから!』
私が叫ぶと鯉伴の拘束が外れた。
そのことにより一層悲しくなりながら、私は拘束の外れた両腕で自分の顔を隠す。
やっぱり嘘だったんだ。
「おめぇ…、」
『わっ、私だって、馬鹿じゃ、ないもん…っ!だま、され、たりっ、しないんだからぁっ!』
嗚咽交じりになりながら、私は嫌い嫌いと泣き叫ぶ。
「…おめぇ、案外嫉妬深ぇんだな…、」
『何がっ!』
「あぁ。大丈夫だ。そんなところも可愛い。」
『意味っ、わかんないっ!』
鯉伴は何か言いたいことだけ言うと私を起き上げて抱き締めてきた。
それに驚いて私はビクリと肩を揺らす。
「名前、」
『も、やだぁ…っ、』
「名前…、泣くな。」
『ひゅぁっ、』
鯉伴は私の腕をそっと掴んで退かすと、ペロリと泣いてる私の目を舐めた。
ヒッと声を出せば楽しそうに鯉伴は笑った。
「あのなァ、いつオレが女と歩いたってんだ。」
『歩いてたよっ!わ、私が、連れて行かれる時に、鯉伴が、綺麗な女の人と、腕組んでたの見たもんっ!』
「……あぁ。雪麗さんと歩いてた時だろ?」
『っ…、』
その言葉にさっきの鯉伴の行動に驚いて収まった涙がまた出てきそうになる。
あぁ、いつから私、こんなに弱くなったんだっけ…
私、死にたくないはずなのに、生きたいのに、
なんで私はこんなに鯉伴が好きなんだろう。
「雪麗さんはオレの母親みてぇなもんだ。おめぇの考えてるような関係じゃねぇよ。」
『、うそ…』
「嘘じゃねぇよ。」
ぶんぶんと首を振って鯉伴の言葉を否定する。
信じられないもん。鯉伴は、酷い人じゃなくちゃ。
私、本当は鯉伴のこと好きになっちゃいけないんだよ。
だって、鯉伴死んじゃうから。
『?!…ぃやっ、…んっぁう…っ、』
頭の中で泣きながら、そんなことを考えているといきなり鯉伴に口付けられた。
それが恐くて鯉伴を引き剥がそうとすると、にゅるりと何かが私の口に入りこんできた。
イヤイヤと涙を零すけど鯉伴は止めてくれなくて、私が酸欠になってきた頃には、何回も何回も違う角度から鯉伴のそれと私のそれを合わせた。
『ふっ…ぅみっゃっ…、』
鯉伴がそれをやめた時には私はもうぐったりとしてて、鯉伴を自分から離す気力もわかなかった。
「……ほんと可愛いよな。」
『り、は…んんんっ、』
「はっ、名前、オレのこと好きだろ?」
瞳からポロポロと涙を流しながら意識が闇に沈む中、鯉伴がそんなことを聞いてたのが聞こえて、私はもう逃げられないんだと思いながらただ頷いた。
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