綺麗な着物に綺麗な帯、美しい簪。
唇には真っ赤な紅。少しだけ染めた桃色の頬。
私を見る人が顔を赤く染めたのがわかる。
だって“山吹乙女”は美しいから。
シャランと私が歩くたびに簪が揺れる。
周りの人は“山吹乙女”に見惚れる。
この容姿のせいで私は母親に殺されたのに。
『ご子息様。どうかなさいましたか?』
ニコリと私に見惚れたままのご子息の前で微笑む。
すると、ご子息は顔を真っ赤に染めいやらしく笑った。
あぁ、くだらない。
美しく着飾って私は今宵ご子息と契りを交わす。
そこに、心はない。
家臣の人たちに見送られ連れてこられたのは昨夜私があてがわれた部屋だった。
布団は敷かれていて、ほんのりと灯りを灯す蝋燭。
その場にドサリと押し倒された。
「美しい、美しいのう。私のモノになるのにふさわしい。」
『……っ、』
男の手が私の肩に触れる。
その瞬間湧き上がる嫌悪感。
涙が出そうになる。
助けてなんて言わない。言えない。
でも、怖い。怖いよ。
息の荒いご子息が私の首、肩、胸、足、着物から触れた。
そしてスルスルと私の帯を引く。
もう、私は戻れないんだ。
ゆっくりと覚悟を決めるように目を閉じた。
瞬間、ドンッと横に何かが倒れる音。
「よぉ。」
『な、んで…、』
おそるおそる目を開けると、そこにいたのは目を釣り上げ怒っているように私を見る鯉伴の姿。
チラリと、その視線に堪えられなくてご子息の方に目を向ければ、ご子息は完全に伸びていた。
ご子息を見ていると、ガシリと顔を掴まれ鯉伴と半ば強制的に目を合わせられる。
「オレがいるってぇのにいい度胸じゃねぇか。」
『っ、』
ゾクリと背中を何かが這う。
鯉伴が、怒ってる。
なんで、こんな怒ってるの、?
『こわ、い、』
「…オレが恐いってか?おめぇはオレよりこいつがいいのかい。」
『っ、そう。だから、だから、』
私のことはほっといて。
そう言いたいけど、言葉が喉に詰まって言えない。
その代わりのように、私からはポロポロと涙が零れる。
「だから、なんだ。」
『ひゃっ、』
「許さねぇ。」
脱ぎかけの帯もそのままに私は彼に横抱きにされる。そのせいで脱げそうになる着物を慌てて両手で抑える。
『や、やめて…おろして…、』
声を震えさせながらそのまま部屋を出ようとする鯉伴に言う。
でも、鯉伴は私のことを一瞥しただけでそのまま部屋を出てしまった。
『っ、やっ!離して!おろしてよぉっ!』
「黙れ。」
『っ、』
鯉伴の暗い、冷たい声がよく通った。
すごく、鯉伴が怖く感じる。
なんで、そんなに怒るの?
わかんないわかんないわかんないよ。
冷たい夜風が私の頭を撫でた。
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bkm