ご子息にあてがわれた部屋の隅で私は蹲る。
部屋で考えろ、だなんて結局は軟禁されてるのと同じ。
どちらにしろ私は妖。
人間とは違う存在なのに。
だから、人間とは契りを交わす気はない。人間どころか私は誰とも契りを交わす気ないのに。
頭の中に仲睦まじそうに腕を組んでいた彼と女性の姿が浮かぶ。
毎日毎日私の元に通って、好きだなんて愛してるだなんて囁いて、
私なんていらなかった。
やっぱりあの人に必要な人は“山吹乙女”で、山吹乙女に成り代わった“私”じゃない。
私は誰にも必要とされない。
もう、側室になってしまえばいいかもしれない。
そうすればもうあの人の顔を見なくてすむ。
『ふぅっ、』
声を押し殺して涙を零す。
大きな声で泣き叫びたいくらい胸が痛い。
でも、そんなのどうすればいいのか忘れちゃった。
私が生きてた時間は私がいろんなことを忘れるには十分な時間だった。
もう私の前世の両親の顔を忘れてしまった。友達の顔も同僚の顔もすべて忘れてしまった。
でもあの人は忘れられなくて、
『ふっ、んっんん、』
ボロボロと涙が零れる。
嗚咽を隠すことは出来なくて、
認めます。認めましょう。
私は鯉伴が好きです。愛してる。
でも、それと同時にすごく怖い。
彼と子を成せない。私と鯉伴は釣り合わない。
山吹乙女の気持ちが痛いほどわかる。
鯉伴に子どもは必要。
でも、その子を産むのは私じゃない。
それに彼は死んでしまう。
どうすればいいの?
どうやって彼の気持ちに答えればよかった?
私が…私が、鯉伴を殺すのに。
誰か教えてよ。
死にたくない。生きたい。キラキラと輝く彼らに近付きたかった。生きたい生きて生きて生きぬきたい。百鬼夜行を背負ってキラキラと輝く彼らに。
『もう、やだ、』
なんで私がここにいるの?
山吹乙女じゃなくて鯉伴と子を成すあの人だったら私は鯉伴の子を成せたかもしれないのに。
死にたくない。鯉伴が好き。
なら、ならやっぱり私が鯉伴と関わらなければいいんだ、
ねぇ、そうでしょ?
「心の準備は出来たのか?」
『はい……私は貴方様の側室になります。』
もう、なんでもいいよ、
彼が、鯉伴があの女性と幸せになるなら、きっと死なない。
じゃあ、私は生きていければなんでもいいや、
自分の瞳が涙で濡れていたのには気付かなかったことにした。
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bkm