かくれんぼ 6


あれから早いもので一年が過ぎた。
私はあの人のことは名前でよばないまま。

それでもあの人は私の元に通ってくる。
毎日毎日。たまに来ないと思ったら夜中に私の家に忍び込んでるのは勘弁してほしい。心臓がもたない。



今年も綺麗に咲いた山吹に笑みが零れる。
山吹を見てると心が落ち着く。

そのまま山吹に見惚れているとガサリと後ろから大勢の人の気配。

私の家全体に人の気配を感じると、一人の男の人が私の前に出てきた。


「お前が名前か。」
『そうですが…どのような御用ですか?』
「あるお方がお前を召喚したいと申し上げた。共に来い。」


そう言われて私は意味がわからないまま、その人たちに連れ去られた。

そのまま私は連行される形で彼らに大通りを歩かされる。


「これがいいのかい?」


ふと、あの人の声が聴こえた。

そこに目を向けると美しい女性と彼が仲睦まじそうに腕を組んで簪なんて見てて、

なんだ。
結局あの人は“私”のことなんていらなかったんだ。

世界がグラリと歪んだ気がした。




「ほう…その娘が町で噂の娘か。噂通り美しいのう。」
『…光栄に存じます。』


私の目の前にはどっかの旗本のご子息。
大切に、苦しみなんて知らずに生きてきたんだろう。その証拠にこの時代だというのに見た目はたっぷりと肥えていた。

ご子息は町で容姿が美しいと評判な私を一目見ようと私を召喚されたらしい。

自分の容姿が美しいってことに自覚はあった。だってこの身体は山吹乙女のだから。
でも町で噂されてたのは知らなかった。

パチンッ、ご子息が持っていた扇子を閉じた。


「決めた!この娘を側室に迎えるぞ!」
『……』
「し、しかし、こんな卑しい身分の者を…、」
「うるさい!なんと言おうがもう決めたことじゃ!わしの言うことに文句があるのか…?」


ギロリとご子息は側近であろう男を睨む。

きっと私はこのままこの男の側室になるだろう。
だって身分の低い私に拒否権なんて存在しないから。

もう、どうでもいいや。


「娘、名は。」
『…名前にございます。』
「ふむ。名前は今日からわしの側室じゃ。異論はなかろう?」
『……ご子息、私に少しお時間をくださいませ。ご子息の側室など私には荷が重いのでございます。』
「そうか。そうか。ならば、この城で二晩じっくり考えるのじゃ。その間、城の外に出ることは禁ずる。」
『……はい…』


結局私には拒否なんてできない。

あの人が浮かんで消えた。





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