私は前世、漫画が大好きな女の子だった。
私が好きだったのは“ぬらりひょんの孫”って題名の漫画。
リクオがすごく可愛くてかっこよくて憧れた。
自分が嫌なこととか率先するリクオに憧れて、尊敬した。
そんな人になりたい、って。
で、物語が進むにつれて私はある人が好きになった。
漫画の登場人物に恋、なんて馬鹿みたいだったけど、好きになった。
その人はリクオの父親。
一番最初に愛した愛しい人と子供が作れなかった可哀想な人。
私はその人が漫画の中で一番好きだった。
でも、しょせん二次元だし。
私は愛でてるだけでよかった。
本気の恋愛は三次元。そう決めてたから。
なのに、私は誰かに殺されて痛みを感じながら此の世界に来た。
生まれ変わっても私はつまらなかった。
元の世界のようにあの漫画があるわけでもない。
ただ父親と母親のためだけに生きる日々。
虚無感しかなかった。
それから何年も過ぎ私は二度目の死を経験した。
二度目の死は母親によって齎された死だった。
そして私は何年も、何百年も生きる妖に。
そこでやっと私は気付いたんだ。
私は“ぬらりひょんの孫”の世界にいたんだって。
私の容姿はある登場人物にそっくりだった。
【山吹乙女】彼の愛した女性。
私は、登場人物に成り代わってしまったの。
でも、私は山吹乙女とは似ても似つかない性格。
それになにより死にたくなかった。
私は死が怖い。恐くて恐くてたまらない。
なら、私は山吹乙女だけど山吹乙女じゃない人生を選ぼう。
そう思った。
山吹乙女は絶望を感じ消えるように死んでしまう。
なら、絶望を感じることになる原因と出会わなければいい。
私は山吹乙女の人生より、私を選ぶ。
だって私は山吹乙女じゃない。“名前”だから。
なのに、
なんで彼は…鯉伴は私を好きだなんて言うの?
一目惚れ?貴方は私の、山吹乙女の容姿が好きなんでしょ?好きなのは私じゃない。
私だって貴方は好きじゃない。
好き、とかじゃない。
あぁ、なのに、なんで、
『私は泣いてるの…』
ポロポロと涙が零れ落ちる。
好きじゃない。好きじゃない。
そう思うたびに、胸が軋む。
でも死にたくない。死ぬのは痛い。恐い。
もう、あんな苦しみを味わいたくない。
鯉伴は私を殺す。
そう思わないと、私はあの人を好きって認めてしまいそうで。
嫌い嫌いなの。
だから入ってこないで。近寄らないで。
私は幸せになりたい。
私に幸せを与えてくれる人は鯉伴じゃない。
だって鯉伴は私に哀しみをくれるから。
今だってほら。
私の心は哀しんでる。
ねぇ、もしも神様がいるなら。
私から記憶を消して、あの人と逢わせてよ。
そしたら私、素直になれる気がするから。
おかしなことを願ってる自分に気付いて私はまた一つ涙を零した。
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bkm