かくれんぼ



何年…いや、何百年も前に私は二度目の人生を歩き始めた。

平成という世から何百年も遡って。

そして私は二度目の死を経験した。
苦しくて、哀しくて、
でも、私は死ねなかった。

この身体は此の世に残り、私は妖としての生を歩むことを強要された。

そして私は識らなくていいことを識ってしまった。
私はいわゆる二次元に転生し、そして登場人物に成り代わってしまった。
しかも漫画では死ぬ登場人物に。

ありえない。
私はもう死ぬのはイヤだし、苦しい想いもしたくない。
だいたい私が、彼女が死ぬ理由は男のせいだった。
なら、その男とは絶対に逢わない。逢いたくない。

私は妖でもいい。幸せに生きるんだから。

これが私の信条です。



見惚れるほど美しい山吹が私の住んでる家の裏に咲いた。
私が何年もかけて育てたものだからすごく嬉しい。

一人で住む屋敷の裏にある山吹だけが私の話し相手


『本当に綺麗に咲いた…』


一房手にとってうっとりと見惚れる。
すると、どこからかカチャンと何かが落ちる音がして後ろを振り向いた。


『っ、』
「………」


いたのはポカンと大口を開けながら私を見てる逢いたくなかった人。

なんで、ここにいるの?

唇を噛み締めて私はそこから逃げるように足早に屋敷に帰ろうとするが、男が私の二の腕を掴んで無理だった。


『っ、離してっ、』
「…なぁ、おめぇなんつー名前なんだ?」
『知らない人に名乗る必要はない。』
「オレは鯉伴ってぇんだ。おめぇは?」
『…言いたくない。』


プイと男から顔を背ける。

関わりたくない。
だってこの人に関わったら私、逃げられない気がするし。
そんなの無理。イヤ。


「…じゃあ、オレと夫婦になんねぇか?」
『……はぁ?』
「一目惚れだ。オレの女になれ。」


なに言ってんだ、こいつ。
いきなり意味のわからないことを言い始めた男を睨むように見る。

てか、俺の女になれとかどこの俺様。

私は自分の二の腕を掴んでいた男の手を思いっきり離す。


『お生憎様。私、初対面でそんな発言する男は嫌いなの。』


そう言い放ってから、私は自分の屋敷にスタスタと戻って行った。

あ、それよりあの男に私の家バレたし、そろそろ引っ越そうかな。
うん。そうしよう。
死ぬのなんて絶対にイヤだし。

そんなことを考えながら、家にあるものを集めて引っ越しの準備をしていた私は知らなかった。


「…おもしれぇ。」


私がいなくなったあとで、男が至極楽しそうに歪んだ笑みを作っていたことに。




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