「じゃあ、バトルをやりましょうか。」
『……あぁ。』
私とカスミさんはそう言って相対する。
あぁ…結局私はレッドと同じじゃないといけなかったの。
昨日、私とカスミさんはハナダシティに着いた。
私はカスミさんに誘われて彼女の家で一休みさせてもらえることになった。
その後、カスミさんに誘われた特訓の言葉。
別にレッドと同じようにいってもよかった。
でも、どちらにしたって特訓はするんだもん。
別にレッドと同じようにしなくてもいいかな、なんて思った私が悪かった。
私の身体からは震えが止まらない。
身体が、精神が、レッドと同じようにしないことを怖がってる。
なんて弱い私。
結局私はレッドのためだ、なんて言っといて自分の精神を守るためにレッドの真似をしてたにすぎないのに。
「?来ないならこっちから行くわよ!」
カスミさんの言葉にスターミーがフッシーに攻撃をしかける。
それを見て、私はポケモンたちは守らなきゃって、
『フッシー避けて、つるのムチでタイルを持ち上げて。』
《ダネフッシー!》
レッドのフリを忘れて、私はフッシーにぼそりと命令する。
フッシーは私の言葉通りに地面のタイルを持ち上げると、それをそのままスターミーに投げた。
スターミーはそれに驚いて避けるけど、その避けた方向にはもう一つのタイルが飛んできていて、ガツンとスターミーに当たった。
『……』
「スタちゃん?!」
『ぁ……、』
ハッと我に返ってあちゃーと顔には出さず、カスミさんに近寄る。
『わ、悪い!』
「…大丈夫よ!まだまだ特訓は始まったばかりだもの!頑張りましょ!」
『…そうだな!』
二カッと偽りの笑顔で私はこれからもレッドとして生きていくしか道はなかった。
それから数日。
お互いの技も覚え、ポケモンたちも強くなったので私たちは笑って別れた。
きっと、カスミさんはこれからロケット団を倒すためにさらに修業を積む。
そして私はレッドの通りにこの世界を歩む。
ハナダに背を向けてまっすぐ歩いてく。
足元にはニョロとフッシー。
ピカは私の肩に乗っている。
『ふっ、…』
《ピーカ…?》
『ごめっ…ちょっとだけ、ちょっとだけだから、』
ボロボロと流れだす涙を拭いながら歩き続ける。
レッドの跡を辿ることは私にとって少し、辛い。
でも、泣き終わったらレッドになるから。
私は“オレ”になるから。
だから、それまで私が弱音を吐くことを許して。
私は弱虫で、泣き虫で、ダメダメで、人一倍行動が遅くて、暗くて、勇気がなくて、一人が嫌で、笑うことしかできなくて、
そんな私がレッドに成り代わった。
ほんとは、すでにレッドと同じように道を歩んでいけないことは気付いてる。
だって私は女で、レッドは男だから。
それに、私の幼馴染は彼。
レッドに幼馴染はいなかったのに。
ねぇ神様、レッドを返して。
『私の記憶だけが、』
レッドの生きてた証。
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bkm