イケメンは二次元に限る



その日はいつも通りだった。
いつも通り早く起きて、いつも通り着替えて、いつも通りパンをこねて。

ふと、おかしいと思った。

あれ?私ってば、こんな“いつも通り”してたっけ?


「名前ー。早く焼くパンを持ってきておくれ。」
『あ、はーい!』


ふと、気付いたそんな考えも、ジャムおじさんの声にかき消されて、急いでこねたパンをジャムおじさんのところに持っていく。

それから、私はチーズにエサをあげるために外に出た。


『チーズ、ご飯だよ。』
「アンアーン!」
『ふふ。チーズ可愛い!』


グリグリとエサを食べてるチーズの頭を撫でて、その場にしゃがみ込む。

うーん。なんだろ。
チーズは可愛い。可愛いんだけど…

なんだか、すっごい違和感。


『うーん…、チーズぅ…なんだと思う?』
「アン?」
『かーわーいーいー!』


とりあえず、チーズをぎゅーっと抱き締めた。





ジャムおじさんのお手伝いをしながら、ぼーっと生地を見る。

途中、なんか声がして、ジャムおじさんからパンを渡されてた人がいた。ちょうど死角になって、その人の顔は見えなかった。

……その人、誰だっけ?

あれ?やっぱりなんか違くない?


『むむむ…』
「どうしたんだい、名前。さっきから、手が進んでいないようだ。」
『ぁ、ご、ごめんなさい…』


ぼーっとしていると、ジャムおじさんが私の肩を叩く。
それにハッとしてジャムおじさんをみると、ジャムおじさんが優しく微笑んでた。


「さて、休憩にしよう。仕事もひと段落着いたからねぇ。」
『あ、はい。じゃあ、紅茶持ってきます。』
「いいよ。わたしが持ってこよう。」


ジャムおじさんはそう言うと、紅茶を淹れに行ってしまった。

それをなんとも言えない表情で見送る。

やっぱり違和感。

なんで、私ってここにいんだっけ?

あれ?
なんか、パズルのピースがはまらない違和感がある。

うーん、と唸っていると、玄関から男の人の声がしたので振り返る。

止まった。私の体が。


「ジャムおじさーん。朝のパトロール終わりましたー。…あれ?名前さん、そんなところでどうしたんですか?」
『き…、き、ききゃぁぁぁぁああああ!!!』
「へ?」


い、いい、イケメンがいるぅぅううう!!!

ぐるぐると頭の中で、ピースが埋まっていく感じがする。

そうだよ、そうだよ!!
おかしいじゃん!!

私、なんでここにいるの??!!
ジャムおじさんも、チーズもアンパンマン!!
日課じゃないよ!全然いつも通りじゃないよ!!

いや、それより…、


『ごめんなさいごめんなさいぃぃい!!ちょっ、こっち来ないでぇぇええ!!!』
「……(面白い)」
『ひぃぃいい!!!!』


尻餅をつきながら、知らない男の人から離れようとするけど、男の人はジリジリと私に歩み寄ってくる。

あ、もう無理。

そう思った瞬間、私の意識は闇の中に落ちていった。


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