『…ん…、』
冷たい何かがおでこに乗る感覚で目が覚めた。
「あ、起きましたか?」
薄っすらと寝起きでぼやける視界を声の方へ向ける。そこには桃色の髪をお団子にした着物を着ている女の子。
『ここ…は、』
見覚えのない小屋のような場所。
おかしいな。私、確かに森の中にいたはずなのに。彼から逃げるように、森のなか、に、
胸が苦しい。痛い。ギュッと心臓を掴まれたような苦しさ。もう逢えないであろう彼を思い出す。
「だ、大丈夫ですか?」
『ふっ、うぅっ、』
こぼれ落ちた涙がポタリ、ポタリと布団に染みを作る。
ああ、離れたばかりなのに、もうこんなに貴方に逢いたくてたまらない。鯉伴、鯉伴、貴方に逢わないと誓ったのに。貴方のことを思い出すと、こんなに胸が痛い、苦しいの。
涙を流す私の頭の上に小さな手が乗せられる。
『……?』
「オレ、オレが護るから、泣かないで?」
『ぁ…っ、』
自分の頭より大きなバンダナを巻いた小さな男の子が私を心配そうに見ながらそう言う。
そうだ、私、泣いてちゃダメだ。
私が決めたんだから。
鯉伴を死なせないために、私は死なないって。
私の身体が羽衣狐の躯にならないように。
私は、なんとしても生きなくちゃ。
でもね、苦しい。苦しいの。
貴方がいない世界が、こんなにも苦しいものだなんて、知らなかった。
『ぅ、あ、り、はん…、』
貴方がいなくちゃ、私は息を出来ないの。
「苦しいんですか?な、なにか飲み物、」
『だ、いじょぶ…お願い、ここにいて…』
「……はい」
これで泣くのは最後。
明日から、私は泣かない。
貴方が遠い地でやや子を授かって、貴方の組が優しい、人間も護るようなそんな組になるよう、私は祈ってるから。
だから、お願い。
私を忘れて、幸せになってね。
鯉伴、私だけは、ずっと貴方を忘れずに愛してるから。
この気持ちだけは薄れることのない気持ち。
ひたすら私を撫でてくれる男の子と、心配そうに私を見る女の子に、私は当分涙が止まらなかった。
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bkm