かくれんぼ 24


小さい頃にした“かくれんぼ”を思い出した。





うっそうと茂る山の中。
一人の女が山道を歩く。


時は明治。
維新によって、江戸が終わった頃だった。


『……』


女は無言で歩く。
その瞳には、疲労と諦めにも似た何かが映っていた。

足を引きずるようにして歩いていた女がとうとう木の根に身体を預けるように座り込んだ。


『………りはん…』


そう女が呟くと、そのままゆっくりと瞳を閉じた。

暫くしてから、女の前に小さな影が一つ。


「……妖怪?」


一人の少年が彼女を見つけた。





夢を見る。
本当は私は転生なんてしてなくて、妖怪なんかじゃなくて、普通の子どもなの。
それで、たまにお母さんとお父さんと喧嘩したりするけど、いつもは仲良しで、弟が笑顔で姉ちゃん!って私を呼んでくれる。

もう、戻らない私の過去。

幼い頃、かくれんぼをしたのを思い出す。
誰にも言わずに、黙って消える。
私が始めるかくれんぼ。

綺麗な夕陽が私たちを照らす中、私は隠れる。

それをお母さんが、お父さんが、友だちが必死に探してくれることが嬉しくて。
私の存在を愛してくれてる気がして。

隠れてる時間が心地良かった。

私の名前を必死に呼ぶ声を聴きながら願った。


(私はここだよ。早く見つけて。)


見つけたときに、怒って、それから抱き締めてくれることが嬉しかった。


でも、それはもう戻らない時間でしかなくて。


私は鯉伴に見つけてもらうことを望んでるのかもしれない。

表面では、鯉伴を心配する振りして、鯉伴があの人と子をなすことを認めた振りして、

心の裏側では、鯉伴に私を見てほしい、私のことで頭をいっぱいにして欲しいって。


あぁ、本当に私は最低。


だいすき、あいしてる。
ねぇ、鯉伴。私の醜い心をどうか暴かないで。
貴方に嫌われたくない。綺麗な私のまま、貴方の心の中に残っていたいの。

優しくありたかった。
私を殺したあの母親も笑って赦せるそんな人に。
人でありたかった。
鯉伴と子をなせることのできる人間の身体に。
強くありたかった。
誰かを、大切な人たちを護れるような妖怪に。

でも、それは理想でしかない。

……あの頃に戻りたい。
無邪気に笑って“かくれんぼ”をしていたあの頃に。

願っても、叶うわけがないのに。


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bkm
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