『…もう、朝日がさしたようですね。』
キラキラと、桜の木の近くにある池に朝日が反射する。
昨夜から、深川の方で火の粉があちこちに飛んでいた。
雪麗さんは、心当たりがあるらしく、昨夜から落ち着かない様子でウロウロ行ったり来たりを繰り返してる。
「名前ちゃん!あんたは出ちゃダメよ!わかった?!」
キョロキョロと私があたりを見渡すと、焦ったような雪麗さんにそう言われた。
やっぱり、昨日は私の知ってる原作だったのかな。
どうしよう…鯉伴が、怪我してたら…
ギュッと手を握り締める。
どうか、無事でいて。
また、私に顔を見せて。
「う〜〜あの子何やってるのかしら〜!一ツ目、狒狒、あの子を見てきてやってよ〜」
ボソッと雪麗さんが私に聞こえないように、一ツ目さんと狒狒さんに呟くと、めんどくさそうな顔をした一ツ目さんと、狒狒さんが部屋から出て行った。
怖い。とてつもなく、恐い。
私のせいで、鯉伴が死んだら、どうしよう。
私は、生きていけない…
「あー!もう!待ってらんない!」
そう言って、切羽詰まった様子の雪麗さんが、二人の後を追いかける。
私も雪麗さんに着いて行った。
▽
「鯉伴!」
門のところまで来ると、雪麗さんが鯉伴を呼ぶ声がした。
小走りになって、鯉伴の元まで向かう。
『鯉伴…おかえりなさい、』
「ああ。ただいま。」
いつもの鯉伴に涙が零れる。
よかった。生きててくれた。
いつもの鯉伴だ。
そう思ったら嬉しくて、我慢出来なくて、
『ずっと、待ってたんだから…!』
鯉伴の腕の中に飛び込んだ。
会いたかった。
鯉伴に、私の名前を呼んでもらいたかった。
私を愛してほしかった。
身体中に、愛を刻んでほしかった。
不安で不安でたまらなくて。
鯉伴の優しさに溺れたかった。
「名前…」
『鯉伴、鯉伴…』
「部屋、行くぞ。」
もうすぐで、私の時間は終わってしまう。
だから、それまでは一緒にいて。
私を、私だけを、愛して。
私が消えたら、鯉伴は他の人と幸せになっていいから。
私がいなくなるまで、私に愛をください。
鯉伴の部屋で、ひたすら愛を注がれながら、そんなことを祈った。
気が付けば、私はこんなにも鯉伴を愛してる。
拒絶から始まった私の恋心は、今では愛へと変わっていた。
私の時間はもうおしまい。
彼は、運命の人と出会う。
そして、運命の子を授かる。
その中に、私はいない。
私が出来ることは、彼を死なせないことだけ。
鯉伴、私は鯉伴を死なせない。
そのために、私は鯉伴の前から消えるんだよ。
ごめんね。愛してる。
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bkm