ポロン、ポロンと、綺麗な音色が響く中、私はせっせと洗濯物を運ぶ。
最近、お仕事多いから頑張らなくちゃ。
「あんた、怪我は?」
洗濯物を干していると、雪麗さんの声が聞こえて、振り返る。
『怪我は、だいぶ良くなりました。心配かけて、すいません。』
「別に謝らなくてもいいのよ。怒ってるわけじゃないんだから。」
『あ、はい。』
いつの間にかこっちに来た雪麗さんが、ニヤリと不敵に微笑む。
雪麗さんは、優しい人。
私の四番目のお母さんみたいな人。
雪麗さんといると、私が山吹乙女になる前のお母さんを思い出して、無償に縋りたくなる。
お母さんは、優しかった。
時に怒って、時に笑って、時に泣いて。
たくさんの時間を共有してきた。
なのに、私は死んでしまったから。
鯉伴がいないと、どうしようもなく、前世のことを思い出してしまう。
「名前ちゃん?あんた、どうしたのよ。泣いてるわよ。」
『ぇ?あ、』
雪麗さんに言われて、慌てて目を擦る。
久しぶりに、前世のこと思い出したから…
やっぱり、鯉伴いないと寂しい。
そう、思ってしまうのは、いけないことだってわかってる。
だって、もうすぐ私は鯉伴と離れるしかないから。
私が鯉伴と祝言をあげて、もうすぐ五十年。
時間は、もう近付いてる。
「あんたも珱姫も、なあんで、ぬらりひょんの嫁ってやつらは、強がりなのかしら。」
『ぇ…』
「妾は、これでも、あんたが可愛いのよ。」
ギュッと、私より背の低い雪麗さんが私を抱き締める。
そしたら、もう涙は止まらなくて。
『ふっ、ぅー…』
「………」
鯉伴、鯉伴、早く帰ってきて。
私、鯉伴がいなくちゃ寂しいよ。
▽
「落ち着いた?」
『はい…ありがとうございます。』
たくさん泣いて幾分か経つと、だいぶ私も落ち着いてきた。
うん。恥ずかしい。
穴があったら入りたいってこのこと言うんだろうな。
「あんたは、強がりすぎよ。鯉伴がいるんだから、甘えたらいいじゃないの。」
『…でも、鯉伴の前だと、素直になれないんですもん…』
「あんた…」
鯉伴を前にすると、なんだか素直になれない。
恥ずかしくて、どうしても強がっちゃう。
本当は、鯉伴の“愛してる”が、すごく嬉しいのに。
どうして、素直になれないんだろう。
そんなことを考えていると、雪麗さんからため息が聞こえた。
『?』
「それじゃあ、鯉伴もかわいそうだわ。」
『うぅ…』
「いい?今度、鯉伴が帰ってきたら、素直に自分の気持ちを言いなさい。鯉伴は、あんたのことが好きなんだから。」
『でも…』
「でも、じゃない!」
雪麗さんの、迫力あるその声に、思わず首を縦に動かした。
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bkm