かくれんぼ 20


ポロン、ポロンと、綺麗な音色が響く中、私はせっせと洗濯物を運ぶ。

最近、お仕事多いから頑張らなくちゃ。


「あんた、怪我は?」


洗濯物を干していると、雪麗さんの声が聞こえて、振り返る。


『怪我は、だいぶ良くなりました。心配かけて、すいません。』
「別に謝らなくてもいいのよ。怒ってるわけじゃないんだから。」
『あ、はい。』


いつの間にかこっちに来た雪麗さんが、ニヤリと不敵に微笑む。

雪麗さんは、優しい人。

私の四番目のお母さんみたいな人。
雪麗さんといると、私が山吹乙女になる前のお母さんを思い出して、無償に縋りたくなる。

お母さんは、優しかった。
時に怒って、時に笑って、時に泣いて。
たくさんの時間を共有してきた。

なのに、私は死んでしまったから。

鯉伴がいないと、どうしようもなく、前世のことを思い出してしまう。


「名前ちゃん?あんた、どうしたのよ。泣いてるわよ。」
『ぇ?あ、』


雪麗さんに言われて、慌てて目を擦る。

久しぶりに、前世のこと思い出したから…
やっぱり、鯉伴いないと寂しい。
そう、思ってしまうのは、いけないことだってわかってる。

だって、もうすぐ私は鯉伴と離れるしかないから。

私が鯉伴と祝言をあげて、もうすぐ五十年。
時間は、もう近付いてる。


「あんたも珱姫も、なあんで、ぬらりひょんの嫁ってやつらは、強がりなのかしら。」
『ぇ…』
「妾は、これでも、あんたが可愛いのよ。」


ギュッと、私より背の低い雪麗さんが私を抱き締める。

そしたら、もう涙は止まらなくて。


『ふっ、ぅー…』
「………」


鯉伴、鯉伴、早く帰ってきて。
私、鯉伴がいなくちゃ寂しいよ。





「落ち着いた?」
『はい…ありがとうございます。』


たくさん泣いて幾分か経つと、だいぶ私も落ち着いてきた。

うん。恥ずかしい。
穴があったら入りたいってこのこと言うんだろうな。


「あんたは、強がりすぎよ。鯉伴がいるんだから、甘えたらいいじゃないの。」
『…でも、鯉伴の前だと、素直になれないんですもん…』
「あんた…」


鯉伴を前にすると、なんだか素直になれない。
恥ずかしくて、どうしても強がっちゃう。

本当は、鯉伴の“愛してる”が、すごく嬉しいのに。

どうして、素直になれないんだろう。

そんなことを考えていると、雪麗さんからため息が聞こえた。


『?』
「それじゃあ、鯉伴もかわいそうだわ。」
『うぅ…』
「いい?今度、鯉伴が帰ってきたら、素直に自分の気持ちを言いなさい。鯉伴は、あんたのことが好きなんだから。」
『でも…』
「でも、じゃない!」


雪麗さんの、迫力あるその声に、思わず首を縦に動かした。


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bkm
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