ゆっくりと、瞼を開く。
温かいぬくもりが、わたしの手のひらを包んでいた。
空は綺麗に晴れていて、こんなにも日の光で満ち溢れてる。
「名前ちゃ…ん、?」
『かいえんさ、』
「名前ちゃん!!よかった、本当によかった!!」
名前が言い終わる前に、灰閻さんにギュッと抱き締められる。
あぁ、こんなにも、人のぬくもりが温かい。
久しぶりのぬくもりに、灰閻さんの背中に手を回す。
『ごめんなさ、ごめんなさい、灰閻さ、ん、しんぱい、かけて、』
「謝らなくていいんだよ。僕たちは家族なんだから。」
優しい優しい灰閻さんの言葉に、涙が零れる。
ずっと、灰閻さんはわたしのことを認めてくれていた。
灰閻さんの“家族”として、わたしの存在を許してくれてた。
『ふっ、ぅう…っ、』
下唇を噛んで、灰閻さんに抱き着きながら泣くのを堪える。
私の嗚咽だけが、部屋に響く。
優しく慈しむように私の背中を撫でてくれる灰閻さんが、
愛おしくて
哀しくて
わけのわからない虚無感にただただ涙を流す。
「声を、出してもいいんだよ。」
『!』
「君はまだ子どもだ。僕が、大人が君を助けてくれる。声を出して泣いても許されるんだよ。」
『ぁ…あ、ふぅ…ぅ、…うぁぁぁぁあああんんん!!!!!!』
箍が外れたように叫ぶ。
迷惑がかかっちゃう、と思ったけど、止められなくて。
頼ちゃんは、もともと怒ってなかった。
わたしの中の“私”を見ててくれてた。
一人じゃなかった。
ずっと、悲観的に世界を見て、拒絶して、一人閉じこもってた。
けど、わたしを見ててくれる人は確かにいて。
わたしが一人で閉じこもってる間も、灰閻さんはわたしを待っててくれた。
わたしのことを信じてくれてた。
嬉しい、けど、哀しくて、
わたしは、信じてもらえられるような人間じゃないから。
結局、頼ちゃんが許してくれても、灰閻さんがわたしを見てくれても、わたしが頼ちゃんにしてしまった罪は消えない。
消えないから、
灰閻さんの優しさが痛い。
『ごめんなさ、ごめん、なさ、ぅう…っ、ひくっ…ご、なさ、』
「………」
静かにわたしを抱き締めてくれる灰閻さんに、悪くて、
嗚咽交じりに懺悔した。
▽
「名前ちゃん、写真撮ろうか!」
『…しゃしん?』
「うん!僕、写真を撮るのが好きんだよね。」
ニコニコと笑ってカメラを持つ灰閻さんに、わたしも恐る恐る不完全な笑みを作る。
ずっと、人の顔色を見るだけだったわたしは笑うことを忘れてしまった。
でも、笑いたいから。
また、あの日常を楽しんでいた時のように笑いたいと思ったから。
誰に強制されるわけじゃない。
わたしの気持ち。
『わたしも、写っていいの…?』
「もちろんだよ!」
ぎゅうっとわたしを抱きしめてくれる灰閻さんに、わたしは自然と笑みを浮かべた。
ごめんなさいごめんなさい。
貴女を生贄にしてしまって、貴女の人生を奪ってしまって。
それでも、わたしがこの人生を生きていくことを赦してください。
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bkm