彼女にとって、それはいつもの日常だった。
友達と笑って、話して、遊んで、
いつもの日常だった。
満足していた。
なんの代わり映えのない日々に。
変わる日々なんて望んでいなかった。
ただただ、いつでも側にあるすべてが愛おしくて、大切だった。
『ぇ…、』
いつもの帰り道。
グリュッ、
肉を断つ音が聞こえたと思った瞬間に、ドクドクと温かいモノが、だんだんと冷たくなっていく身体に反して流れていく。
足が身体を支えきれなくなって、彼女は倒れた。
チカチカとする視界を必死に動かして、なにが起こったのかを理解しようと、下腹部を見る。
いままでに見たことのない、たくさんの紅が、自分から流れていた。
『ひっ…、』
「あはははははははは!!!!これで**はあの世界にいけるんだぁ!ごめんねぇ?通りすがりの人!貴女は**の生贄なのぉ!」
そんな言葉も耳に入らなくて、彼女の頭の中にあるのは、真っ赤な燃えるような血。
耳障りな声をキンキンと発していた少女が消えた。跡形もなく。
一人、だんだんと広がる血溜まりを目に映しながら、彼女は涙を零し、願った。
『(死に、たくない…)』
願って、しまった。
『(生き、たい…、まだ、生きた、い…、なにを、犠牲にしても…、なんでもいいから…、)』
望んでしまった。
犠牲によって成り立つ“生”を。
ただただ生きたかった。
“生”に縋り付いた。
それがすべての始まり。
視界に紅い血を残し、冷たくなっていくに恐怖を感じながら、彼女は息絶えた。
次に目覚めたとき、自分が絶望するとは知らずに。
彼女は自分でも気付かないうちに、生贄を差し出した。
自分が生きるための生贄。
自分が成り代わるための生贄。
自分の“生”の意味を教えてくれる生贄。
すべては彼女が望んでしまっただけに。
それでも、生贄は微笑む。
みっともなく“生”に縋った人間らしい彼女を。
生贄のために人生を捧げようとした彼女を。
他人のため、人のために一生懸命になれる彼女を。
彼女は、生贄は、繋がりを求めた。
彼女は生贄との繋がりを。
生贄は彼女との繋がりを。
彼女は自分を憎んであろう生贄との繋がりを恐れ、求めた。
生贄はずっと苦しんでいる彼女との繋がりを嘆き、求めた。
『(あの子の命を奪ってしまった。私の、ただのエゴのためだけに。あの子は悪くないのに。ごめんなさいごめんなさい。)』
「(貴女を苦しませるために、私の“生”と貴女の“生”を取り替えたんじゃない。私は、貴女を死なせたくなかっただけなの。)」
二人は求めあった。
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bkm