元宮さんの言葉に、戌憑きも慊人も衝撃的な顔をする。
それに、私は勝ち誇ったようにクスリと笑った。
「なんで、お前がそれを知って…、」
慊人に至っては顔面蒼白。
まるで病人である。
『慊人、行くぞ。』
そんな慊人の手を引いて、私はさっさとその場から立ち去ることにした。
やだ、私ったらテライケメンwwww
後に残った二人はもう知らん。
『慊人、大丈夫?』
「っ、名前名前名前名前名前名前!!!あ、あいつ、僕が、女だって、知って、」
あの二人と別れて、姿が見えなくなったとたん、慊人が私に縋りついてくる。
ガタガタと震えて、元宮さんに恐怖する慊人。私の親友。
『私だって、慊人が女だって、気付いたよ?』
「違う!!あいつ、は、みんなみんな知ってたんだ!!それにつけ込んで、僕たちを壊すんだぁぁぁあ!!!!」
『慊人、慊人。息を深く吸って。』
「名前名前名前名前、」
錯乱状態の慊人を、どうにか落ち着かせようと、近くにあったベンチに座らせて、自分は慊人の前にしゃがみ込む。
手をギュッと握った。
「恐い、恐い。僕から、離れないよね?名前は、名前だけは、僕とずっと一緒にいてくれるよね?お願い、お願いだから…!!」
『当たり前。私と慊人で永遠を作るんでしょ?』
私の言葉に涙をポロポロと流す慊人を抱き締める。
元宮さん、赦すまじ。
私の腕の中で、ガタガタと震える慊人を抱き締めながら、私はどーやって十二支憑きを正気にさせるかを考える。
元宮さんの思い通りにしちゃぁ、ダメだよね。
慊人のためにも。由希のためにも。
それに、物語から外れた世界を壊すのは、透である私の役目。
『全員の目、醒まさせるよ。』
「名前……」
元宮羽依なんかのために、誰かが傷付いてはいけない。
私が透成り代わりだとしたら、あいつは透ポジション成り代わり。
透に誓って、透の代わりであるやつに惑わされたやつは正気に戻す。
紫呉Side
何年か前に、僕たちのところに来た元宮羽依ちゃん。
僕は彼女に見惚れて、そして好きになった。
そう、好きになったんだ。
あの子が生まれた瞬間に感じた気持ちを忘れて。
「なんで、羽依ちゃんが、」
「そ、そんなの見た瞬間にわかるよ!」
ニコニコと何かを取り繕うように笑う羽依ちゃん。
それに何か違和感を感じる。
…何か、じゃない。
これははっきりとした違和感。
そうだ。彼女はもともとおかしかった。
初めから、僕たちが十二支憑きだって知ってた。夾君が猫憑きということも知っていた。
男が慊人さんをエスコートしながら、歩く。
慊人、さん。
彼女は弱かった。
その、はずだった。
でも、男といる彼女は笑顔で、幸せそうで。
「紫呉?どうしたの?」
「ういちゃん…、」
僕は、何か大切なものを失ってしまった。
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bkm