『忍。』
「はい?なんでございますか?」
メイちゃんと理人さんが学校で、タミちゃんと神崎さんも学校で、忍と二人きりの陰寮。
紅茶のいい匂いが私の鼻をくすぐる。
窓の外を眺めながら、私は忍に話しかけた。
『最近、勝手にいなくなることが増えてるわ。他のお嬢様方と密会するのは別にいいけど、メイちゃんには気付かれないようにね。』
「……名前様は、」
『ん?』
メイちゃんと理人さんが来てから、忍は前よりも頻繁に出かけるようになった。
こんな頻繁に出かけていたら、理人さんが私とメイちゃんの二人のお世話で大変でしょうに。
私の言葉に、ピクリと反応した忍を横目で見る。
「名前様は、私が他のお嬢様方と密会していてもよろしいのですか?」
『?別にいいと思うけど。』
首を傾げて、今度は真っ正面から忍を見る。
すると、忍は執事なのにわかりやすそうな顔。いつもより不機嫌な顔をしてた。
あら?執事はポーカーフェイスが売りでは?
『忍?綺麗な顔が台無しよ?』
「……っ、」
『ほら、執事なんだから、ポーカーフェイスでいなくちゃ。』
忍に近付いて顔をムニュッと引っ張る。
お、おぉ…!私よりもスベスベな気がする。
気持ちいい…!
片手で私の頬を触ってみるけど、忍ほどスベスベじゃない。
……やっぱり年かしら?
「名前様、」
『あ、でも、私の前ではポーカーフェイスじゃなくてもいいわよ?私、いっぱい忍の表情みたいもの。』
「名前様……」
『そうねぇ。今一番見たいのは、』
忍が彼女の話をする時の表情ね!
「……………………は?」
『は?じゃないわよー!忍もいい年なんだし、彼女の一人や二人いるんじゃない?それに、最近は密会でしょー?あ、隠さなくていいのよ?私、結婚は恋愛結婚推奨ですもの!だから、もしも忍がお嬢様と付き合いたいのなら、ちゃんと言うのよー?』
にっこにこと笑顔を忍に振り撒く。
すると、扉の方からプッと噴き出す音。
そちらに目を向ければ、学校が終わったらしい理人さんとメイちゃんがいた。
『あら、おかえりなさい!』
「ただいま!」
「柴田くん、なぜさっき笑っていたんですか?」
「いえ、あまりにも貴方の余裕のなさが滑稽で。」
「「……………」」
ぎゅーっとメイちゃんと抱き合っていると、また忍と理人さんが睨み合っている。
やっぱりこの二人は性格的に合わないのかしら。
私的にはすごく似ていると思うんだけどな。
「お姉ちゃん、どうしよ…」
『ん?どうしたの?』
そんなことを考えていると、メイちゃんが不安気に私を見上げていた。
それを優しく頭を撫でながら、そっと理由を聞く。
「あのね、理人さんを賭けてデュエロすることになっちゃったの…」
『あらまぁ。』
手で口を抑える。
もうそんな時期なのかしらかしら。
確かそんなこともあったけど、もうそんな時期とは。驚きですわ。
『でも、大丈夫よ。理人さんなら、勝てるもの。』
「戦いはイヤだから、辞退しちゃダメ…?」
『それはメイちゃんが自分で決めることよ?正式に、メイちゃんの執事は理人さんだしね。』
クスクスと微笑みながら、メイちゃんの唇に人差し指を当てる。
きっと理人さんが傷付くのがイヤなのよね。
さすがヒロインとヒーロー!ラブロマンス!
「そっ、だよね…」
『大丈夫よ。私はいつでもメイちゃんの味方だからね!』
メイちゃんをぎゅーっと愛でながら、私はこれからの展開にワクワクしていた。
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bkm