「ふ、藤岡くん!」
『…ん?なぁに?』
彼が後ろから聞こえた声に振り向けば、そこには可愛い女の子がスカートの裾をギュッと握って顔を真っ赤にしながら、上目遣いで見ている。
「あ、ああの、」
『んー、君の話を聞いてあげたいのもやまやまなんだけど、自分今からお昼寝に行くからまた今度ねー?』
「ぁっ…、」
『今度聞くからさー。』
そう言うと彼、いや彼女は、手を振りながら女の子から離れてしまった。
藤岡名前 15歳。
桜蘭学院高等部特待生。
物語の主人公に成り代わった少女である。
『今日はどこでサボろっかなー。』
前にいたところはキャラが来るようになっちゃったしなぁ。
一人しかいない廊下でそんなことをぼんやりと呟きながら、ぶらぶらとあてもなく移動する。
私、藤岡名前は十五年前に死を経験し、またこの世に生み出された。
初めて父親と母親の顔を見たときは、自分がハルヒの姉として生まれたのだと思った。
でも、待てど暮らせど彼女は生まれない。やがて母親が病で床に伏せるようになって、やっと自分がハルヒに成り代わったのだと気付いた。
それを知ったときは母親に縋って謝った。
けど、事情なんて知らないはずのお母さんはただただ私を撫でてくれた。
だから、私はお母さんみたいな人になろうって、
そう決めたんだ。
私はこの世界で生きている。
私はこの世界を自分の世界だと思っている。
私は幸せだ。
でも、私は最初にハルヒを殺すという罪を犯した。
だから、せめてもの贖罪として、
『彼らには関わらないよ、ハルヒ。』
それがハルヒへの償いになると信じて、私は今日もサボり場所を探す。
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bkm