それは私たちにとっての。
要が最近、素直で可愛い。無表情だった顔が、私たちを見つけると笑顔になる。可愛すぎる。
あのあと、何度か武田のやつらが来たが、それは全て要を大切に想う森の動物たちが追い出していた。
恐らく、物の怪が出ると言われていたのは、この森の動物たちの仕業だろう。
要がモロと呼んでいる狼を中心に、奴らは驚くほど結束が堅くなる。
「(そういえば、天女は瀬戸内に向かったって。)」
「へぇ。今度はあの二人を誑かしにでも行くのかな。」
「まあ、私たちには関係ないだろう。」
『瀬戸内?ってどこ?』
「あはは。要ちゃんは知らなくていーの。」
団子を頬張りながら、首を傾げて佐助に聞く要に胸がきゅんっとする。
ほっぺたについてる食べカスは素か?!素なのか?!可愛すぎるだろう!!
『モロー、ギュッてしてもいーい?』
「くぅん。」
無邪気に要とあの狼がじゃれ合う。
要は知らないと思うが、私たちがあの城に入れたのは、半分近く、そいつのおかげだぞ。
要が武田にいるという情報を掴んでから、私が女中として潜り込み、要の居場所と現在の武田の様子を調べていた。
一週間くらいして、要が打ち首になるということを聞いて、要を奪還させることに決めたが、思った以上に守りが堅く、風魔と佐助が入るのが難しかった。
そこをあの狼が、城にいた馬を暴れさせ、そちらに目を向かせたおかげで、私たちは要を奪還することができた。
動物たちに命令を下すことができるあの狼が、どんな存在か。
そんなのはどうでもいい。
私たちの幸せは、要とともに平和に暮らすことなのだから。
『佐助さん、佐助さん、』
「んー?」
『明日の夜ご飯は、お刺身がいいです。』
「はいはい。考えとくね。」
『はい。』
フワリと微笑む要に、穏やかな時がずっと流れることをただ祈った。