いつも通りの町だった。
とくに異常はない。
千鶴の父親もいる気配はない。
そんな町の中を行く当てもなく、ぶらぶらと歩く。沖田のいる隊舎に戻りたくない、そんな想いから。
そんなことを考えていると、誰かとぶつかった。
その拍子に、私は尻餅をつく。
しまった。
こんな簡単に尻餅をついてしまうなど、まるで女だ。
「貴様は…、」
自分の失態に内心舌打ちをしていると、上から聴こえた声に顔をあげる。
金の髪に、赤い瞳を携えた男。
瞬間、頭の中の警報が鳴った。
ダメだ、ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだ!!!!
こ い つ は 危 険 だ
すぐさま立ち上がり、その場から立ち去ろうと男に背を向ける。
すると男に二の腕を掴まれ、その行為は失敗に終わった。
『っ、離せ、』
「フ、ハハハハハッ!!!」
私の二の腕を強く掴み、高らかに笑う男に恐怖が沸き上がる。
イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ、
鬼はもうたくさんなんだ!!!
逃げたくて周りを見ても、周りは見て見ぬフリ。
もしも、私が今浅葱色を羽織っていれば、対応は違っただろう。
だが、今の私はそれを羽織っていない。
誰も、私が新選組だとは気付かない、
『離せ、離せ離せ!!』
「こんなところで女鬼と逢えるとはな。たまには町に来てみるものだ。」
ドクン、心臓が鳴る。額からはイヤな汗がじんわりと出てくる。
バレている。女だと、鬼だと、バレている。
『やめろ、やめて、くれ、』
「今や、貴重な女鬼だ。悪いことにはならないだろう。ただし、俺の子を孕めよ。」
瞬間、昔の忘れたくても忘れられないあの魔の時間がフラッシュバックする。
汗ばむ身体が私に重なる熱い息が私の耳元にかかる舌が、手が、私の身体の隅々を這う息をするのも苦しくなるほどの何かが私の中に入る泣き喚いても止まらない律動
『い、や、』
「俺の女だ。」
べろりと私の頬を舐めた男に涙が一筋流れた。