一ヶ月 | ナノ


▽ 目覚めのキスを


次の日、アリシアが自分の部屋から出てみるといろんな人からジロジロと見られた。主に女の子たちからの目線が痛い。

その視線に困っていると、ドンと私の身体に何かが抱きついた。


「アリシア!貴方、トムと付き合い始めたって本当?!」
『ええ。やっぱりもう知れ渡ってるのね。』
「すごい勢いでね!でも、私にくらい言ってくれたらよかったのに!」


ぷくーっと頬を膨らませて私にそう言うアイリーンに苦笑いをする。

アイリーン・プリンス。優しい私の親友。
入学当時から私なんかと一緒にいてくれるちょっとドジな女の子。
彼女と一緒にいると心がホッと温かくなる。

それに今も彼女のおかげで私は女の子たちの視線から逃げられた。
偶然だとしても、彼女のこういうところにはいつも感謝してる。


「で、どっちから告白したの?」
『私からに決まってるじゃない。…でも、ちょっと強引だったかもしれないわ……』
「……アリシア、何かあった?」
『!』


心底心配そうに下から覗き込むアイリーンにアリシアはビクリと体を揺らす。
でも、それも一瞬のことですぐに笑顔を取り付けた。


『なんにもないよ?アイリーンは心配性ね。あ、今日の一時間目は魔法薬学よ。アイリーンの好きな授業じゃない。』
「…そう?よかった!アリシアが元気じゃないと私も元気がなくなるもの!それにしても、一時間目から魔法薬学なんてラッキーね!」


無邪気に笑うアイリーンにホッとして私も笑った。



「アリシア」
『、リドル……』


全ての授業を終えアイリーンと自分の寮に帰っていると、後ろから私の好きな人の声が聞こえたので、クルリと振り向く。
案の定、そこにはニコリと笑顔の仮面を貼り付けたままのリドルがいた。


「授業は終わった?ちょっと話したいことあるんだ。プリンス、アリシアを借りていいかな?」
「……いいわよ。」
「じゃあ、行こうか。アリシア」
『はい…』


ニコニコと偽りの仮面を貼り付けたままのリドルが私を誘う。
それにリドルが好きなアリシアが断れるはずもなく、アリシアはただリドルに着いていくだけだった。



「ねぇ、昨日のことなんだけど、なんで僕が秘密の部屋を探してるって知ってるの?」
『……』


暴れ柳のそばにある森の湖まで来ると、リドルは笑顔でアリシアに聞いた。ただし、瞳は笑っていない。

昨日付き合えることになると、リドルには質問を許さず帰ってしまった。
本当のところ、アリシアは質問されて全てを答えないなんて出来る自信がなかった。
それほど、アリシアは彼が好きだから。


「聞いてるの?」
『…わ、たしは、』
「?」
『ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい』


いきなり狂ったように言うアリシアにリドルは驚いた。
リドルが聞いていたアリシアとは全然性格が違ったからだ。
彼が昨日アリシアと付き合うことになり、自分の寮の奴らから彼女の話を聞いた。

レイブンクローのはずなのに、スリザリンの奴らからの評判はとてもよく、「彼女は大人しくて優しくてまるで聖母のようだ」とか「彼女といると温かくてホッとする」だとか「他人のために尽くすことができる最高の女」だとか言う奴らがたくさんいた。

リドルは驚きが隠せなかった。
自分に告白してきて、さらに無理矢理僕と付き合おうとした女とは似ても似つかなかったから。

でも、それと同時に微かな優越感を抱いた。
誰も知らない彼女を自分は知っているという優越感。
リドルは何故、そんな優越感を抱いたのかわからなかったが。

そんなことを考えながら今だに狂ったように謝り続けるアリシアに、リドルは他の人が知らない彼女の姿にドクリと心臓が騒いだ。



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