▽ すきであふれた
『リドル、リドル!私、楽しくて幸せで死んじゃいそう!』
「そんなに?」
『ええ!』
そう言って笑う彼女はやっぱり綺麗なんだ。
僕とアリシアの手は絡められていて、まるで本当の恋人みたい。
僕は、彼女を利用してるだけなのに。
彼女はなんでこんなに幸せそうなんだろう。
なんで僕は、
『!…リドルの笑ってる顔、すごく素敵。』
こんなに幸せだって思えるんだろう。
「…別に。ほら、次はバタービール飲むんでしょ。」
『うん!』
彼女といると、ギュッと胸が締め付けられる。
彼女が、愛おしいだなんて、
『リドル?』
「……んで、」
『え?』
「なんでアリシアは僕のことをファミリーネームで呼ぶの?」
三本の箒でバタービールを頼む。
ふと、彼女は一度も僕のことを【トム】と呼んだことがないことに気付いた。
他の奴らは、僕のことを僕の嫌いな、あの忌々しい父親と同じ名前で呼ぶのに、彼女はいつも僕をリドルと呼ぶ。
『だってリドルはトムって呼ばれるの嫌いでしょう…?』
「、なんで、」
なんで気付いたんだ。
僕の演技は完璧だった。それなのに。
なんで彼女は気付いたんだろう。
『ずっと見てたら、リドル、他の子たちにトムって呼ばれると一瞬眉をしかめるの。だから、嫌なのかなって。』
「……ふーん。アリシアはそんなに僕を見てたんだ。」
『!』
顔を真っ赤にするアリシア。耳まで真っ赤だ
あぁ、なんだろう。
すごく、すごく、
「可愛い……」
『っ、りど、』
「アリシアは僕のモノだから。特別に僕のことトムって呼んでいいよ。」
これはただの気まぐれ。
別に彼女が好きってわけじゃない。
だって僕は彼女を利用してるだけだから。
あぁ、なのになんで、
こんなにも気持ちが止まらない。
『と、む?』
「なぁに?」
『トム、トムトムトムトムトム。すき……』
「!」
私に優しく微笑んでくれるトムがすき。
なんだかんだいって優しくしてくれるトムがすき。
トムと一緒にいるのがすき。
私の手を掴むその手がすき。
私は特別だと言ったその声がすき。
あなたのすべてがすき。
『トム、すき、すきだよ。だいすきなの。あいしてるの。いとおしくてたまらないの。ずっと一緒にいたい。すき、すき。』
すきが止まらない。
一緒にいたいなんて、私の命はあと二週間もないのに。
あぁ、どうしてこんなに欲張りになったんだろう。
ポロポロと私の瞳から涙が零れる。
悲しくなんてないのに。ただ、彼が愛おしいだけなのに。なんで、涙は出るんだろう。
「アリシア、おいで。」
『ぇ、?』
泣いている私が気に入らなかったのか、私はトムは私の腕を引いて三本の箒を出た。
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