子どもの頃に願った私の願い事。
“家族が欲しい”
ただ、それだけだった。
▽
『アリスお姉さん、アリスお姉さ、』
「名前…心配かけてごめんなさいね。」
『う、んっ、』
アリスお姉さんを奪還したあと、車で走ること何時間か。
私はアリスお姉さんにぎゅーっと抱きついて離れない。
「名前は本当、アリスが好きだな。」
『うん!だって、アリスお姉さんは私のお姉ちゃんだもん!』
マットお兄さんにそう言われたので、笑顔で答える。
優しくて、かっこいいアリスお姉さんは私のお姉ちゃん。
私を怒って、褒めてくれるマットお兄さんは私のお兄ちゃん。
一緒にいるとあったかくて、ホッとするクイーンちゃんは私の親友。
みーんな、私の“家族”。
「ふふ。なら、名前は私の可愛い妹ね。」
『! うん!』
アリスお姉さんが私を撫でてくれるのが嬉しくて、にっこりと笑みを零す。
「そういやァ、名前は家族はどうしたんだ?名前は日本人だろ?」
車を運転していたカルロスお兄さんの言葉にビクリと肩が揺れる。
でも、それも一瞬のことで、すぐに笑顔を作った。
『家族はねー、アリスお姉さんとマットお兄さんとクイーンちゃんっ!』
【名前の家族になれるなんて…!嬉しいわ!】
『クイーンちゃん大好き!』
クイーンちゃんが私を抱き締めたので、私もクイーンちゃんを抱き締め返す。
ニコニコと私が笑っている横で、アリスお姉さんとマットお兄さんが難しい顔してたなんて知らなかった。
アリスSide
カルロスが、名前に家族の話をして気付いた。
それはマットも同じだったようで、目が合うと名前をチラリと見る。
名前は、私たちに家族の話をしたことがない。
ましてや、私たちは名前のことを何も知らないことに気付いた。
私たちが名前と逢った時、あの子は自分の今いる場所も知らずに、あのオリの中でレッド・クイーンと笑っていた。
それは、とてもおかしなこと。
だって、知らない場所で普通に笑っていられるはずがないのだから。
本来、いきなり知らない場所にいたら、泣き喚いたり、家族を恋しがったりするはず。
そもそも、なぜアンブレラ社で倒れていたのか。
次々と、疑問が浮かんでくる。
「アリス、」
そんなことを考えていると、マットが私の方に来て、小声で話しかけてきた。
それに、車の後頭部座席でクイーンとアンジーと話している名前をチラリと見てから、小声でマットに話す。
「ねぇ、マット。貴方、名前から家族の話って聞いたことある?」
「…ない、な。俺と名前が実験室に閉じ込められてた時も、家族の話なんて一切でなかった。」
「そう…」
ニコニコといつも笑っている名前。
もしも、その笑みが偽物だったら。
そう考えると、背筋が凍った。
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bkm