金盞花に哭く 14


高校生になってしまった。

優しかった時間はもう終わり。
わたしたちは、ううん。一護くんと竜貴ちゃんは、これから運命に従わなくちゃいけない。

なら、わたしは…、


「名前ちゃんの好きにしな。」


ぽんぽん、と一心さんの大きな手のひらがわたしの頭を優しく撫でる。


『…一心さん、でも、わたし…』
「あいつが死んだのは、名前ちゃんのせいじゃないだろ?」


一心さんの言葉にツキリと胸が痛む。
確かに、真咲さんが死んだのはわたしのせいじゃないかもしれない。
けど、真咲さんが死ぬのを黙って見てた私だから。

真咲さんはみんなに慕われてた。

真咲さんが死んだ時、みんなみんな泣いた。

みんなを悲しませた。

わたしは、もう泣けなかった。
産まれた瞬間から、未来を想って泣いてたわたしだから。

わたしは、どうすればよかったんだろう。
どうすれば正解だったのかな。


『一心さん、わたし、こわいんです。』
「…なにが怖いんだ?」
『わたしが、ここにいることです。』


ずっと、恐かった。
ううん。今でもすごく恐い。

だって、わたしは本来ここにいるべき人間じゃないもの。

あの本の中に、わたしの居場所はなかった。
でも、わたしはここにいて、生きてる。

悩んでた。
けど、竜貴ちゃんと一護くんがいたから、わたしはここにいるんだと思う。
二人がいなかったら、わたしはきっと自分から死を選んでた。

生きる気力さえ、なかったの。

ねぇ、シロくん。
わたしね、死にたいの。

桃ちゃんを妬む気持ちは消えない。
わたしの心にずっと芽吹いてる。

なんで、こんなことになっちゃったのかな。

なんで、人は人を妬まずにいられないんだろう。


「名前ちゃんは、その双子の子のこと嫌いなのか?」


その言葉に、一心さんの瞳を見る。

一心さんは、わたしのことを知ってる。

わたしが我慢出来なくて、一心さんにぶちまけてしまった。

ただ、あの本のことだけ、言ってないけど。

一心さんの言葉に考えるまでもなく、わたしは無意識に言葉を発してた。


『わたしは、桃ちゃんが好きです。嫌いになんて、なるはずありません。』
「なら、その言葉を伝えてやったらどうだ。それに、名前ちゃんは、やり残したことがあるだろ?」


やり残したことなら、たくさんある。
乱菊ちゃんにお礼を言いたかった。
市丸隊長に一人じゃないよって伝えてあげればよかった。
桃ちゃんに、大好きだよって言いたかった。

シロくんに、愛してるって、言いたい。

たくさんのやり残したことが、涙になって溢れる。

それを一心さんは、わたしの頭をただ黙って撫でてくれた。

またわたしがこの世に産まれたのが罪なら、わたしはそれ以上の大罪を犯す。

わたしは、竜貴ちゃんも一護くんも大事。
みんなが、わたしの大切な人。

桃ちゃんを泣かせたくない。
乱菊ちゃんを悲しませたくない。
市丸隊長を死なせたくない。
シロくんを護りたい。

ねぇ、神様。
わたしは貴方の存在を信じてる。

もう一度、刀を握ることを、どうかお許しください。
いらない“登場人物”なわたしでも、意志はあるのです。

そして、物語は始まる。


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bkm
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