高校生になってしまった。
優しかった時間はもう終わり。
わたしたちは、ううん。一護くんと竜貴ちゃんは、これから運命に従わなくちゃいけない。
なら、わたしは…、
「名前ちゃんの好きにしな。」
ぽんぽん、と一心さんの大きな手のひらがわたしの頭を優しく撫でる。
『…一心さん、でも、わたし…』
「あいつが死んだのは、名前ちゃんのせいじゃないだろ?」
一心さんの言葉にツキリと胸が痛む。
確かに、真咲さんが死んだのはわたしのせいじゃないかもしれない。
けど、真咲さんが死ぬのを黙って見てた私だから。
真咲さんはみんなに慕われてた。
真咲さんが死んだ時、みんなみんな泣いた。
みんなを悲しませた。
わたしは、もう泣けなかった。
産まれた瞬間から、未来を想って泣いてたわたしだから。
わたしは、どうすればよかったんだろう。
どうすれば正解だったのかな。
『一心さん、わたし、こわいんです。』
「…なにが怖いんだ?」
『わたしが、ここにいることです。』
ずっと、恐かった。
ううん。今でもすごく恐い。
だって、わたしは本来ここにいるべき人間じゃないもの。
あの本の中に、わたしの居場所はなかった。
でも、わたしはここにいて、生きてる。
悩んでた。
けど、竜貴ちゃんと一護くんがいたから、わたしはここにいるんだと思う。
二人がいなかったら、わたしはきっと自分から死を選んでた。
生きる気力さえ、なかったの。
ねぇ、シロくん。
わたしね、死にたいの。
桃ちゃんを妬む気持ちは消えない。
わたしの心にずっと芽吹いてる。
なんで、こんなことになっちゃったのかな。
なんで、人は人を妬まずにいられないんだろう。
「名前ちゃんは、その双子の子のこと嫌いなのか?」
その言葉に、一心さんの瞳を見る。
一心さんは、わたしのことを知ってる。
わたしが我慢出来なくて、一心さんにぶちまけてしまった。
ただ、あの本のことだけ、言ってないけど。
一心さんの言葉に考えるまでもなく、わたしは無意識に言葉を発してた。
『わたしは、桃ちゃんが好きです。嫌いになんて、なるはずありません。』
「なら、その言葉を伝えてやったらどうだ。それに、名前ちゃんは、やり残したことがあるだろ?」
やり残したことなら、たくさんある。
乱菊ちゃんにお礼を言いたかった。
市丸隊長に一人じゃないよって伝えてあげればよかった。
桃ちゃんに、大好きだよって言いたかった。
シロくんに、愛してるって、言いたい。
たくさんのやり残したことが、涙になって溢れる。
それを一心さんは、わたしの頭をただ黙って撫でてくれた。
またわたしがこの世に産まれたのが罪なら、わたしはそれ以上の大罪を犯す。
わたしは、竜貴ちゃんも一護くんも大事。
みんなが、わたしの大切な人。
桃ちゃんを泣かせたくない。
乱菊ちゃんを悲しませたくない。
市丸隊長を死なせたくない。
シロくんを護りたい。
ねぇ、神様。
わたしは貴方の存在を信じてる。
もう一度、刀を握ることを、どうかお許しください。
いらない“登場人物”なわたしでも、意志はあるのです。
そして、物語は始まる。
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bkm