金盞花に哭く 10


何も聞きたくない。
何も見たくない。
何も感じたくない。

深い深い、底無し沼のような悲しみが私を覆う。

桃ちゃんとシロくんのツーショットなんて見たくなかった。

聞きたくなかった。
桃ちゃんとシロくんの声なんて。

もういや。
なにも感じたくない。
妬みたくなんてないのに、私は桃ちゃんを妬んでしまうことしかできなくて、

そんな自分がイヤで、変えたくて、

でも、結局は私は自分を変えることができなかった。

私は、感情を、心を、殻に閉じ込めた。

緩やかに、自分が消えていくことには、抗うことすらしなかった。


さようなら。
“私”の愛した人たち。


松本Side

まるで、人形のよう。

以前は、フワフワとみんなを癒すような笑みで笑っていた表情は、まるで凍りついたように動かない。

瞳は開いているのに、起き上がって、目が覚めてるはずなのに、心はここにない。

名前は、どこ、?


「あんたは、笑ってたほうがいいよ…」


お願い。お願いだから、もう一度、あたしに笑いかけて。


「お願いよ…!」


ぎゅっと、何も映さない名前の頭を抱き締めながら、涙を零す。

あたしじゃ、名前の望むものは与えてあげられないことは、知ってる。
でも、あたしはずっと名前といたくて、名前が、幸せならそれでよかった。

あたしが、男ならよかった。

きっと名前を幸せにしてあげられる。
ずっと名前を大切にしてあげられる。

隊長なんかより、あたしは名前の好みを知ってるし、他の誰より名前を愛してあげられる自信があるもの。

でも、名前はひたすらに隊長を愛していて、それ以外の人には目もくれなかった。
隊長だけを盲目的に愛して、隊長だけに自分を捧げてきた。


「ぁ…、乱菊さん、名前ちゃんは…」
「……」


名前の病室から出ると、名前の片割れと隊長がいた。

あたしは、別に雛森のことも隊長のことも嫌いじゃない。
けど、名前の気持ちを少しもわからなかったことは許せない。

双子の姉妹なのに、なんであの子の気持ちがわからなかったのよ。もしも、雛森があの子の気持ちを少しでも、気付いてあげてたなら、あの子は今こんなことになっていなかったかもしれないのに。
隊長はなんで雛森を優先するの?あの子の方が、隊長を守ってるのに。

そんな、思ってもしょうがない恨みが募る。


「…まだ、名前には逢わないほうがいいわよ。」
「そう、ですか…」
「名前の意識は回復しないのか?」
「…っ」


隊長。
誰が名前をそんな風にしたか知ってる?
名前は隊長が好きすぎたんだよ。好きすぎて、悩んで悩んでしまったんだよ。

言ってもしょうがないことなのに。
あまりの鈍さに怒りが爆発しそうになった。


「んー?日番谷くんたちみんなで、名前ちゃんの病室の前でなぁにしとんの?」
「っ、ギン…」
「ほらほら、名前ちゃん寝とるんやから、静かにせんと。」


静かに、ギンは怒ってる。
あたしよりも、怒ってる。

それを見て、スッと頭が冷静になった。


「とりあえず、また来てくださいね!名前もそのうち治ると思うんで!」


にっこりと、偽物の笑顔を作った。

この次の日。
名前は消滅した。


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bkm
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