何も聞きたくない。
何も見たくない。
何も感じたくない。
深い深い、底無し沼のような悲しみが私を覆う。
桃ちゃんとシロくんのツーショットなんて見たくなかった。
聞きたくなかった。
桃ちゃんとシロくんの声なんて。
もういや。
なにも感じたくない。
妬みたくなんてないのに、私は桃ちゃんを妬んでしまうことしかできなくて、
そんな自分がイヤで、変えたくて、
でも、結局は私は自分を変えることができなかった。
私は、感情を、心を、殻に閉じ込めた。
緩やかに、自分が消えていくことには、抗うことすらしなかった。
さようなら。
“私”の愛した人たち。
松本Side
まるで、人形のよう。
以前は、フワフワとみんなを癒すような笑みで笑っていた表情は、まるで凍りついたように動かない。
瞳は開いているのに、起き上がって、目が覚めてるはずなのに、心はここにない。
名前は、どこ、?
「あんたは、笑ってたほうがいいよ…」
お願い。お願いだから、もう一度、あたしに笑いかけて。
「お願いよ…!」
ぎゅっと、何も映さない名前の頭を抱き締めながら、涙を零す。
あたしじゃ、名前の望むものは与えてあげられないことは、知ってる。
でも、あたしはずっと名前といたくて、名前が、幸せならそれでよかった。
あたしが、男ならよかった。
きっと名前を幸せにしてあげられる。
ずっと名前を大切にしてあげられる。
隊長なんかより、あたしは名前の好みを知ってるし、他の誰より名前を愛してあげられる自信があるもの。
でも、名前はひたすらに隊長を愛していて、それ以外の人には目もくれなかった。
隊長だけを盲目的に愛して、隊長だけに自分を捧げてきた。
「ぁ…、乱菊さん、名前ちゃんは…」
「……」
名前の病室から出ると、名前の片割れと隊長がいた。
あたしは、別に雛森のことも隊長のことも嫌いじゃない。
けど、名前の気持ちを少しもわからなかったことは許せない。
双子の姉妹なのに、なんであの子の気持ちがわからなかったのよ。もしも、雛森があの子の気持ちを少しでも、気付いてあげてたなら、あの子は今こんなことになっていなかったかもしれないのに。
隊長はなんで雛森を優先するの?あの子の方が、隊長を守ってるのに。
そんな、思ってもしょうがない恨みが募る。
「…まだ、名前には逢わないほうがいいわよ。」
「そう、ですか…」
「名前の意識は回復しないのか?」
「…っ」
隊長。
誰が名前をそんな風にしたか知ってる?
名前は隊長が好きすぎたんだよ。好きすぎて、悩んで悩んでしまったんだよ。
言ってもしょうがないことなのに。
あまりの鈍さに怒りが爆発しそうになった。
「んー?日番谷くんたちみんなで、名前ちゃんの病室の前でなぁにしとんの?」
「っ、ギン…」
「ほらほら、名前ちゃん寝とるんやから、静かにせんと。」
静かに、ギンは怒ってる。
あたしよりも、怒ってる。
それを見て、スッと頭が冷静になった。
「とりあえず、また来てくださいね!名前もそのうち治ると思うんで!」
にっこりと、偽物の笑顔を作った。
この次の日。
名前は消滅した。
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bkm