黄金に手を伸ばす 8


「止めて!止めてーっ!!セフォラが石の下に!!」


その声に男たちに水を汲んでいた手を止めて、騒ぎの中心に走る。


「とめるなーっ!工事が遅れる!奴隷女の一人や二人がなんだ!引けーっ!」
「えーっ!」
『はぁ?』


兵士の言葉にイラッとくる。

なに奴隷女の命軽く見てんの?馬鹿なの?死ぬの?
アイリス様怒っちゃうよ?え?

にっっっっこりと、笑みを作る。作り笑顔はできるよ。余裕のよっちゃんだよ。


『お待ちください。兵士様。』
「ん?なんだ!奴隷女ごときが出しゃばるな!」
『貴方は知らないのですか?はっはっはっ!そんなんでよくもまぁ、兵士なんて職につけましたね。』
「な、なんだとー!」


私の挑発に乗ったカスが、私の元に来る。

調子乗るなよ、カス。
人体構造なら元医大生の私がよーく知ってるんだよ。よって、関節外しも余裕のよっちゃん。
まあ、やらないけど。


『貴方様はお忘れですか?太陽神ラーの愛し子であるアイリス様のおっしゃった言葉を。お忘れなら、もう一度、この私がお前の頭に叩き込んであげますわ。』
「っ、この!」


兵士が私に刀を振り上げる。
それを、一人の男が止めた。


「やめい!」

「ミヌーエ将軍!」
「ミヌーエさまだ!」


やっとか、この野郎。遅いわ。

ミヌーエ。メンフィス付きの部下。
そして、元私の部下的な位置にいた子。
過保護でめんどくさかったけど、私の命を大事にしよう運動には賛成してくれてたから、アイリスの代わりに奴隷たちの様子をみてもらってた。

奴隷の中でも、民の中でもアイリスの評価は満点よ。いやん、私って策士。


「この奴隷の言う通りだ!お前たちは、今は亡きアイリス様のお言葉を忘れたのか!奴隷も皆同じ命!そのお言葉を忘れるとは…」
「も、申し訳ありません…!」


とりあえず兵士はミヌーエに丸投げして、私はセフォラとキャロルの元へ走る。


『セフォラ、大丈夫?…って、ダメだよね。』
「え、えぇ…、ありがとう、ナマエ、キャロル…」
「ねぇ、ナマエ…アイリス様って誰…?」


………あ、キャロルのこと忘れてた。


『あー…、あとで話すよ。とりあえず、セフォラを手当てしなくちゃ。』
「ゆけ…その怪我をした女には苦役を免じる。家でゆっくり休むがよい。」
「おお…ミヌーエ将軍、ありがとうございます。」


なんて、セフォラがお礼を言う中で、あの兵士覚えてろよ、とか思っちゃう私は、結構根に持つタイプですけどなにか?

七代先まで呪ってやらぁ。





「お母さん、少しは楽になった?」
「えぇ。だいぶ良くなったわ。」


セチとセフォラが、親子の会話をしてる横で、ナマエちゃん、キャロルにめっちゃ見られてる。
やだ、そんな見ないで照れるわー。


『それにしても、単純骨折でよかった。複雑だったら、こんな処置じゃダメだったし。』


セフォラの足には膝くらいまでの長さの木をあてがって、包帯グルグルしました。
やっぱ、古代だと手術とかは難しいし。てか、医大生だから、そんなことやりたくない。手術怖いわ!


「キャロル、ナマエ、本当にありがとう。貴方たちがいなかったら、私は死んでいたわ。」
「そんな…結局、ナマエが堂々と言ってくれたおかげで助かったのよ。」
『いや。キャロルが叫ばなかったら、私は気付かなかったから。あ、あと、これから熱が出るかもしれないから、セチは解熱薬をもらってきといた方がいいよ。』
「うん!二人とも本当にありがとう。」


セチ可愛い。癒された。


「おばさん、アイリス様っていう人とミヌーエ将軍はどういう方なの?」
「アイリス様…、あの方は私たち奴隷も一人の人間として見てくださった方よ。あの方がいたから、私たちの待遇は前よりも良くなったの。あの方が亡くなった時は、全員が涙したほどよ。ミヌーエ将軍は、メンフィス王をいつも影から守っている人望あつい将軍。アイリス様の意志を継ぐように、私たちを守ってくださるの。」


いやん。私ってめっちゃ褒められてるわー。

まあ、ミヌーエがちゃぁんと、私の意志繋いでくれてよかったわ。
え?繋いでなかったら?

あっはっはっは。そんなの、末代まで祟ってやらぁ。

これもすべて、無表情でお送りしております。てへ。


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