黄金に手を伸ばす


古代エジプトにて。

艶やかな黒髪に、黄金の瞳を持った王女がいた。

その娘は、民に“太陽神ラーの愛し子”と呼ばれ、崇め奉られていた。

しかし、その娘は齢十五という若さでこの世を去った。
ナイル河に流され、溺れ死んだという。死体は流され、人々は彼女の姿を見ることは、もう一生なかった。

民は嘆き悲しみ、口々に言った。


彼女は、アイリス様は、ラー神に見初められ、この世を旅立たれたのだ、と。


彼女の姉と弟は、おおいに悲しみ嘆いた。

自分の愛する彼女がもう自分とは一生逢えないのか、彼女はもう自分の名前を呼んでくれないのか。

彼女の姉アイシスは、彼女の代わりに弟メンフィスを命に変えても守ると約束し、下エジプトの女王として君臨した。

また弟メンフィスは、彼女を愛した太陽神ラーを掲げ、エジプトを守る王として君臨することを約束した。


そして約三千年の時を経て、彼女は再びこの世に産声を上げた。





「ナマエ、ナマエ!」
『ん、どうしたの?』
「王の墓を発見したのよ!」


きゃー!と、可愛らしい声を上げて興奮気味に話をするキャロルに、よかったねー、と返す。

棒読み?ちゃいまんがなー。

……うん。嘘。ごめん。キャロル。
ぶっちゃけ興味ないや。

キャロルは可愛いけど、王の墓はちょっと…

てゆーか、エジプトで王の墓っていうと、イヤな予感しかしないや。
あ、背中ゾワッてきた。


「それでね、いろいろあって貴重な粘土版が割れてしまったの…」
『……手伝って欲しいの?』
「えへ。」


ペロッと舌を出して、そう言った私の双子の妹は可愛くて、ハゲ萌えた。


『じゃ、私はこっちやるから。』
「やったー!ナマエ大好き!」
『(和む。)』


ぎゅーっと私に抱き付いてくるキャロルに癒されつつ、私はその粘土版を手にとった。


ソフィア・リード。
それが今の私の名前。

なんの因果か、私はソフィア・リードとしてこの世に産まれる前、転生なるものを経験した。

一度最初の記憶はナマエとして生きていた頃から始まる。
ナマエこれが、私が自分のただ一つの名前として、大事にしてる名前。

日本で、私が名前として生きた人生は忘れかけてるけど、名前だけは、どうしても忘れられない。

二度目、古代エジプトの第二王女として産まれ、アイリスと呼ばれていた。
その時は、ひどかった。
本当にひどかった。
近親相姦も同性愛もアカンわ。
うん。いくない。

だって、自分の姉と弟が私の貞操奪おうとしてるんだよ?
恐ろしいわー。
当たり前だけど、逃げて逃げて逃げまくったわ。

いや、古代エジプトではさ、兄妹婚も少なくはない!とか力説してたけど、やだよ。私。
そして、兄妹婚は少なくないかもしれないけど、さすがに女同士はないよ。

って、言ったら、


「そんなもの…メンフィスとわたくしたちが添い遂げれば、わたくしとアイリスが添い遂げたも同然!」


同然!じゃないよ。
突っ込みどころたくさんだわ。

ちなみに弟にこれを言ったら、


「ははは!姉上は今さらなにをおっしゃるのです?私と姉上が添い遂げることは昔から決まっていたではないか!……それとも、今さら好いた男ができたとでも…?」


目が逝ってた。
だってなかったもん。光が。ハイライトが。
私に好きな男がいたら、どうなってたのか。
生まれ変わった今でも、考えると恐ろしいわ。

そんなこともあったけど、なんか気付いたら河に流されて意識失ってた。
で、目が覚めると赤ん坊。

一体、私に何回赤ん坊をさせれば気が済むのか。

突っ込みたかったけど、あのヤンデレ兄妹といるよりはいいので、赤ん坊やりました。
やっぱり、普通の兄妹はいいね。
双子の妹が可愛くてたまりません。
妹だけが、呼んでくれる私の名前は以前よりもっと大切なものになりましたわ。

でも、最近兄さんその1がヤンデレっぽいんだけど。

……気のせいって信じてる。


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bkm
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