市丸Side
彼女の視線の先には、日番谷くんと雛森さんのツーショット。
静かに涙を流す彼女に、口が弧を描いたのがわかった。
「名前ちゃん、なにみとんの?」
『っ!ぁ…、市丸隊長…』
ボクを見たとたん、目を丸くさせてこちらを見る名前ちゃんに、ボロボロにしてやりたい気持ちが沸き起こる。
身も、心もズタズタにしてボクだけに依存させてやりたい気持ち。
あぁ…、そうなったらどんだけ気持ちええんやろう。
『別に…なにも見てないですよ!』
にっこりと、まるで仮面でも被っているかのように笑みを張り付ける彼女を喉の奥で笑う。
ほんま、演技うまいなァ…
ボクも乱菊と一緒におったところ見んかったら、ずっと騙されとったかも。
「ん?日番谷くんと、雛森さんやん。名前ちゃんは挨拶せぇへんでええの?」
『…いいんですよ!シロくんと桃ちゃんの邪魔しちゃったら悪いですし!ね?』
そう言って、この場から早く離れようとボクの背中を押す。
あかんわ。
イジメたくなるわ。
名前ちゃんの手首をつかむ。
「まぁ、ええやないの。日番谷くーん、雛森ちゃーん。」
「あ…市丸隊長。それに名前も。」
「チッ、」
二人に近付いてくるにつれ、名前ちゃんはカタカタと震える。
顔が青ざめて、見とるこっちが辛くなるくらいや。
まあ、嘘やけど。
「名前。市丸にそんなに律儀に付き合わなくてもいいんだぞ。」
「なんや、ひどいわァ。ボクが毎回名前ちゃんに迷惑かけとるみたいな言い方。」
「実際、サボってるのはお前だろ。」
日番谷くんと軽口を叩きながら、名前ちゃんをチラリと見ると、顔を青ざめさせながら、ニコニコと笑みを取り繕っとた。
▽
私は市丸隊長が恐い。
彼に底知れぬ恐怖を感じる。
私の胸に秘める醜い感情にも気付いてる気がして、彼と一緒にいると、笑みが上手く作れない。
他の人の前では簡単に作れるのに。
今日もシロくんと桃ちゃんが話しているのを遠くで見つめる。
心の中で渦巻くのは、桃ちゃんに対しての憎悪で、そんなことを思ってしまう自分がすごくイヤ。
消してしまいたいくらい。
素直に桃ちゃんを好きと思えない。
もう、すべてを投げ出してしまいたくなる。
いつでも笑ってる“雛森名前”という人物も、姉に醜い感情しか持たない“雛森名前”という人物も。
すべて、壊してしまいたくなるの。
でも、弱い弱い醜い私には、自分を殺すことができなくて。
虚を殺すときに、いつも思うの。
虚が、私を殺してくれないかなって。
弱虫な私は自分を殺せないから。
虚が弱い私を、醜い私を殺して、消しほしい。
結局、他力本願な私に、乾いた笑みが零れる。
最期の最期まで、私は自分を信じずに逝くことを考えて、
最低な私。
早く、誰か私を消して。
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bkm