「よっ!名前!」
『…あ!恋次くん!』
後ろから聞こえてきた声に、にっこりと笑みを浮かべて振り向く。
「久しぶりだな!」
『そうだね!最近、忙しかったから…、』
「そうだな。そういやァ、ルキアには会ったか?あいつ、最近名前と会ってねぇ、ってボヤいてたぞ。」
その言葉に、笑顔をちょっとだけ崩す。
本当に、ちょっとだけ。
だって“私”は、いつも笑顔だから。
『そうだったんだぁ…、私もルキアちゃんと会ってないから、会いたいな。』
「とりあえず、今日は俺と茶でもしようぜ!」
『恋次くんがおごってくれるならね?』
「ったく、しょーがねぇなぁ。行くぞ。」
『やったー!』
恋次くんの服を掴んで、ニコニコ笑いながら、早く行こう、と引っ張る。
すると、私の首根っこが掴まれる。
『あ。』
「名前ちゃん、どーこ行こうとしとんの?」
『市丸隊長…、』
私の首根っこを掴んだのは、市丸隊長。
それに、一瞬だけ笑みを亡くす。
けど、それは本当にすぐに笑みを貼り付けた。
『市丸隊長〜、私仕事終わりましたよー?』
「なに言っとんねん。僕の仕事が終わってへんよ。」
『えー!それは市丸隊長の仕事じゃないですかぁ!私は今から恋次くんとお茶しに行くんですよ!』
「堪忍なぁ。隊長命令や。」
『うっそーん…、』
はぁあ、と大袈裟にため息をついて、恋次くんの目を見る。
『…ごめんね、?』
「仕事ならしょーがねぇだろ。また今度行こうぜ。」
『うん!ありがとー!』
ニコニコと笑みを貼り付けると、恋次くんにお礼を言って、私を置いてさっさと仕事場に行こうとする市丸隊長の後ろを追いかけた。
▽
無言で隊舎で仕事をする私と市丸隊長。
でも、その無言の空間に悪い気はしない。
むしろ、なんだか落ち着く。
「なぁ、名前ちゃん。」
そんなことを思いながら、仕事をしていると、市丸隊長が話しかけてきた。
それに笑みを貼り付けて答える。
『なんですか?』
「なんでさっきの、イヤやいわへんかったの?」
一瞬で笑顔は消えた。
けれど、それも一瞬だけ。
すぐに私は笑みを浮かべる。
変なの。まるで私じゃないみたい。
『……イヤ、なんて思ってないですよ。恋次くん好きですから!』
私の口はペラペラと薄っぺらい言葉を話す。
ほんとは、好きなんかじゃない。
どうでもいい。
私にとってすきな人はシロくんで。
大事だと思う人はシロくんと乱菊ちゃん。…それから桃ちゃん。
好き、ってよくわからない。
「名前ちゃんは嘘つきやなァ。」
そんな市丸隊長の言葉が聞こえないフリをして、私は書類に視線をおとした。
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bkm