世界が一つになるまで 18


「名前…、待ってて、あたしが助けるから。」


美朱ちゃんの声が、聞こえた気がした。





いつも夢の中にでる悪夢。
私が死んでしまった時のことが頭から離れない。

それを振り切って目を覚ますと、やっぱりここはお兄ちゃんのいる世界じゃなくて、本の中の世界。

何度目が覚めても、どこで目が覚めても、絶望を感じる。

私がここにいる意味はなに?
私は必要なの?

ぐるぐると頭の中をそんなことが廻る。


《んー…?ごしゅじん…?》
『っ、ごめんね。めーちゃん、起こしちゃったね。』
《うーうん…だいじょぶだよ。》


私が思いっきり飛び起きてしまったせいで、めーちゃんの瞳が開く。

ゴシゴシと前足で目を擦るめーちゃんの頭を撫でる。

すると、やっぱりまだ眠かっためーちゃんは、ウトウトと微睡み、やがて気持ち良さそうに目を閉じた。

クスリと、自然と笑みが零れる。
私なんかを守るって言ってくれためーちゃん。
私なんかを大好きと言ってくれためーちゃん。

この世界に来てしまったことは、とても辛くて、哀しくて、苦しかった。


けど、めーちゃんがいたから寂しくはない。


めーちゃんの額にそっと唇を落とすと、そっと部屋から出た。


外から出ると、寒さで息が白くなる。

ここに来て、三ヶ月くらいが経った。
着物のような服を着ることも慣れてしまったし、この世界の食べ物を食べることにも慣れてしまった。
最初は食べ物を食べると、吐いてしまったけれど。

庭のような場所へ出ると、彼がいた。

白い吐息と、汗がキラキラと朝の日差しに反射する。

美朱ちゃんの、将来の旦那様。


「おっ、名前ー!」


私に気付いた彼が、鍛錬を止め、手を振って私の元に来る。

けど、私は笑えない。
めーちゃんといる時は笑えるのに、彼らと会って、話しても、私は笑えない。


『おはようございます。』
「おお。つーか、ほんと名前ってあの仔犬といる時以外笑わねぇよなァ…」
『…ごめんなさい。』


鬼宿の言葉に何も言えず、ただ謝る。

すると、ムニュッと頬を掴まれた。
むにゅむにゅと、鬼宿が私の頬をいじる。

私は無表情で、目の前にいる鬼宿を眺める。

だって、笑えないんだもん。
めーちゃんといる時は、自然に上がる口角も、彼らと話していると笑えない。

お兄ちゃんといる時だって笑えるのに、彼らにだけ。


「名前の肌って気持ち良いな。」
『……?』


一瞬、鬼宿が見せた瞳が、朱雀と似ていたのには気付かないフリをした。



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