【高度二万八千フィート。】
RDの声が船内に響いた。
船室の先端、床の一部がひらく。
天井のウィンチからのびた極細ワイヤーに、クイーンはからだを固定する。クイーンの足もとには、雲が広がっていた。
【風速のデータ入力完了。誤差プラスマイナス九十四センチ以内で、目標に降下することができます。】
黒いボディスーツに身を包んだクイーン。
いつもそれなら私も少しは尊敬の念が持てるのに。
そう考えたけど、性格が変わらなきゃダメだってことに気付いた。
「こちらは準備完了。いつでもいいよ。」
クイーンがRDにそう言ってから私を見た。
「あれ?ジョーカーくんは?」
『今日までに百二十七匹のネコを届けるのに顔色が悪かったんで寝させました。』
脳裏に目の下に隈ができた無表情のジョーカーを思い出す。
あれはかわいそうだった。
『ジョーカーからの伝言です。失敗のないように、だそうです。』
「わたしを誰だと思ってるんだい?“蜃気楼…ミラージュ”の異名を持つ、怪盗クイーンだよ。わたしが失敗することはない。」
『そうですか。』
そう言いながら私を抱き締めるクイーンにニッコリ笑って手をつねってやろうか、と悩む。
私を抱き締める意味がわからない。
「わたしが帰ってくるのを、楽しみに待っていてくれたまえ。ちゃんと“リンデンの薔薇”を持ってくるよ。あとーー」
『?あと?』
「この仕事が終わったら、またひまになるだろ。ノミ取りするために犬を二、三匹連れてこようかとー…」
「降下!」
そのとき、ジョーカーの声が聞こえた。
ヒュオンと音を立てて、クイーンとクイーンに抱き締められていた私の身体が落下する。
『ひぃやあああぁぁぁぁぁぁぁ…………』
「じょ〜ぉ〜だぁ〜ん、だぁ〜よ〜ぉ〜…」
もう、イヤだ。
上で、私が落ちたことに気付いたジョーカーが不安そうにしていたのを私は知らない。
ジョーカーに寝てろって言ったのにぃぃいい!!!!!
私は落ちながら、自分の身体にそこまで負担がかかってないことに気付いて、あれ?と不思議に思ったのは余談である。
ちなみに、この名前。
自分では気付いてないが、超人の域に片足を踏み入ってる。
なので、五百フィートの場所でブレーキをかけられても、「あれ?なんかからだがバキバキしてる。」で終了してしまう。
……ドンマイ!
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bkm