重い。
私の身体にはノミ取りが終わったネコがたくさんひっついてる。
やだ、なにこれ怖い。
ちなみにクイーンが予告状を出してから一月。
あと二十二日でもとい二十二匹で日本。ビバ日本。
「人間、やっぱり目標を持って取り組むということは大切だね。」
「話しかけないでくれませんか。ぼくはぼくで、忙しいんです。」
『私はクイーンのネコが身体にのしかかってきて大変なんです。終わったなら退かしてください。』
ネコのノミ取りを終え、シャワーを浴びたらしいクイーンが爽やかな笑顔で言ってきたのを、私とジョーカーで一蹴する。
ジョーカーにいたっては、クイーンなんて見てもいない。
さすがジョーカー。見習いたい。
「ジョーカーくんは、なにがそんなに忙しいんだい?」
私の身体の上にいるネコを一匹持ち上げて触りながら、優雅にソファーにもたれジョーカーに話しかける。
こいつ、私の話はスルーなの?スルーなんですか。
「あなたが百二十七匹のネコの飼い主を探すようにいったんじゃないですか!広告を出して以来、毎日、山のように連絡があるんですからね!」
『そうですよ!それになんだってネコが私の……ぁあっ、そこはダメだよ!!』
ジョーカーに続いて我慢できなくなった私も文句を言ってやろうと思ったら、ネコが私の首をザラリとした舌で舐めてきた。
あぁ…!なんで私がこんな目に…!
「大丈夫か?!」
『……もう、やだ。ジョーカー助けて…』
そしてすぐに私に駆けつけてネコを綺麗な青い瞳(クイーンいわく邪眼)で追っ払ってくれるジョーカーがただのイケメンにしか見えない。本当に。
もしも、これで普通の人だったら、惚れてたかもしれない。
でもあいにくジョーカーも普通の人じゃないんで。
……あれ?私の周りに普通の人っていない?
ちょっと不吉な考えになってしまったので首をぶんぶんと振って考えを消し飛ばした。
「あなたのせいで名前も迷惑しているんですよ。わかってますか!」
「そんなに怒らなくてもいいじゃないか。ねぇ、RD。」
私とジョーカーに怒られた(ってかジョーカーだけ。私、怒ってないや。)クイーンはRDに助けを求める。
でも、あいにくRDもこの暇人を相手してるほど、ひまじゃない。
【わたしはわたしで忙しいんです。邪魔しないでください。】
「きみはなにをしてるんだい?」
【ジョーカーと名前にいわれて、飼い主希望者の調査です。】
「調査?」
【本当にネコを可愛がってくれる人かどうか、責任持って最後まで飼ってくれる人かどうか調べるようにいわれてるんです。】
クイーンがジョーカーを見た。
ジョーカーは私がネコの被害にあわないように、私を膝の上に乗せてテーブルの上の手紙を見ている。
ちなみに私の身長は145p。
ジョーカーの膝の上に座っていてもなんら違和感は感じられない。
……一応17歳なんだけどな。
そんなことを考えていると、ジョーカーが口を開いた。
「のらネコがどうなろうが知ったことじゃありませんが、愛情のない家庭で飼われるほど不幸なことはありませんからね。」
ふりかえらずに言ったジョーカーはもうただのイケメンだった。
クイーンはジョーカーを見習ったほうがいい。
そんなことを考えながらチラリとクイーンを見る。
すると、クイーンは二つのワイングラスにシャトー・ムートン・ロートシルトというワインをそそいで、私たちのそばにそっと置いた。
『?』
「…そのとおりだね。わたしは幸せだよ。ジョーカーくんと名前とRDの愛情に囲まれてね。」
口がふさがらないとはまさにこのこと。
クイーンはきっと愛情を知らないと思う。
辞書で引いてきたほうがいいと思う。
ジョーカーがやっと顔をあげ、クイーンをなにか言いたそうな顔でクイーンを見る。
「あなたは、ぼくたちからの愛情を感じているんですか?」
「もちろん!」
「………………」
なにも言わないジョーカーだけど、ジョーカーの周りの空気が「こいつ、うぜぇ。」って言ってる。恐い。
私はなんとかフォローをいれようと、ジョーカーの膝から退き、クイーンの顔を見る。
『人それぞれですよね。いいと思います。その考え方。』
「やっぱり名前は分かってくれたね。さすがわたしの見込んだ子だ。よし、これからわたしと一緒に遊ぼうか!」
そう言ってぐるぐると私の身体を持ち上げまわるクイーン。
クイーンは私が遠回しに愛情をあげたことないって言ったことに気づいたほうがいいと思う。
そんなくだらないことをしていたら、クイーンが予告状を出してから六十二日が過ぎた。
そのあいだ、ジョーカーが日本のあちこちにネコを運んでいた。
ちなみにこのネコたち、船から運ぶときに、私からなかなか離れなくて、クイーンでストレスの溜まったジョーカーにおもいっきり睨み付けられて渋々宅配されたという裏話がある。
ほんと、ジョーカーって苦労してるよね。
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bkm