モニターに千六百七十四名の高価な美術品や宝石の所有者たちがうつしだされる。
ちなみに一つのデータがうつしだされる時間は一秒にも満たない。よって、超人的ななにかを持っていない私は全然全くわからなかった。
RD、私は一般人なんだよ。
って叫んでやろうかと思った。
「RD、六百二十八番目のデータを、もう一度うつしてくれないか。」
…もう一回言うね。
さっきの、計千六百七十四のデータの一つがうつしだされていた時間は一秒にも満たない。
普通の人間は、そんな一瞬でデータを覚えるのは無理。
それをやってのけたクイーンは、馬鹿でもアホでも間抜けでも、一応凄いんだね…
人は見かけによらないって言葉はクイーンのためにあるよ。
…あ、でも、クイーンは見た目だけ、見た目だけなら完璧だった。
「さすがですね、クイーン。どれだけゴロゴロ怠けて遊んでいても、あなたは偉大な怪盗です。」
『私はジョーカーもすごいと思うよ。尊敬する。』
「……ありがとう。」
クイーンと同じようにあの一瞬でデータを覚えるジョーカーも、私に言わせてみれば超人だよ…
あぁ、なんか日本が懐かしい…
「ジョーカーくんは、“腐っても鯛”という東洋のことわざを聞いたことがあるかい?」
「腐った鯛は食べられないと思いますが…、」
「そう。だから、腐らないうちに食べたほうがいいという意味があるんだ。」
『(違う。全然全く違います。)』
*腐っても鯛→ すぐれた素質や価値を持っているものは、どんな悪い状態になっても本来の価値を失わないたとえ。仮に腐ろうとも鯛は鯛であり、魚の王者に変わりはない意味から。(ことわざ辞典より)
「それが今の状況とどんな関係があるんですか?」
「よくわからないが、東洋ではこういう場面でこのことわざを使うそうだ。」
「東洋の神秘ですね。」
とりあえず、二人とも辞書引いてこい。
そう思ったけど、やっぱり口には出さなかった。
ちなみに、絶対に意味を知ってるであろうRDも黙っていたから、別にいいと思う。
【六百二十八番目のデータです。】
パッとモニターに赤いダイヤモンドが映しだされた。
赤いダイヤモンドの名前は“リンデンの薔薇”。
所有者は日本人で星菱大造。
とりあえず日本に帰れるらしい。やっほい。
「ジョーカーくん、名前。このダイヤモンドに見おぼえはないかい?」
「素晴らしいダイヤだとは思います。」
『右に同じ。』
モニターを見たまま、問いかけてくるクイーンに対し、こちらもモニターを見たまま答える。
ちなみに、めんどくさいときはすべて「右に同じ」で答えると楽だよ。日本人の豆知識。
すると、クイーンから聞こえたのはため息。
あ、殴りたい。
そう思ったけど、行動には移さなかった。
「キミたちの欠点は、宝石や美術品に興味がないことだね…」
スクリと立ち上がったクイーンがドヤ顔をしながら、“リンデンの薔薇”について説明し始めた。
とりあえず、このダイヤは本当の名前を“ネフェルティティの微笑み”とか言うらしい。ちなみに呪いのダイヤとも言うらしいよ。
恐ろしい。
余談ではあるが、説明の途中何回も質問され、すべて「わかりません。」で通したら、ため息をつかれたので、髪を引っこ抜いてやろうかと思った。
自分がまだまだ忍耐が足りないと思った今日この頃。
とりあえずクイーンはソファーの下にワインを隠すのと、ワインを開けるのにいちいちびんを切断するのはやめたほうがいいと思う。
………ジョーカーとRDが怖いから。
この日、日本に六十二日後に怪盗クイーンが“リンデンの薔薇”を盗むという予告状と、ネコの飼い主募集という記事がインターネットに流された。
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bkm