リンゴとハチミツ 5


『おにい、ちゃんが、ねっ、』
「うん。お兄ちゃんがどうしたの?」


優しく私の言葉の続きを待つ、優しくていいカモなお兄さんに泣き(真似し)ながら必死で話す。


『れすと、らんのっ、クリスタルってとこに、一人で行っちゃってね、』
「うんうん。」
『みのるくんと、なまえがっ、置いてかれちゃったのっ!』


ウルウルと上目遣いをしてお兄さんに連れてって!と抱きつく。
すると、お兄さんは素直に連れてってくれるらしい
私と実くんの頭に手を置くと「兄ちゃんが連れてってやるからな!」といい笑顔で笑った。

うん。チョロい。

そうして歩くこと約十分。案外すぐに着いた。

ちなみに、私の手は実くんによってがっしりと掴まれている。


「おい!!なんだよそのガキ!」
「人捜してるんだよ。」


私たちを連れてきてくれたお兄さんがレストランの受付けの男と話してる横で、私と実くんは目当ての人を見つけた。


『たくやお兄ちゃん!』「にーちゃ!」
「なに!?どこだ?」


拓也くんを見つけたと同時に、実くんは拓也くんのもとへ走っていく。私はというと、実くんが意外と力が強くて引っ張られてる。

あれ?実くんってこんなに力強かったっけ?


「にーちゃぁ」
「実!名前!」
「にーちゃぁぁあ!」


そのまま実くんは私を引っ張って拓也くんのもとへ走る走る。
このまま感動の再会になるんだなぁ、と思った。

ら、

こけっ

「ふぎゃあ」『ふえぅ?』


それから思いっきり私と実くんはこけた。
こけそうになる勢いのまま、私と実くんは拓也くんをスルーしてテーブルクロスを掴んでしまった。

ガチャーン!

そんな音がしてテーブルにあった料理たちが飛ぶ。

ヤバいヤバいヤバい。どうしよ、どうしよ。
ダラダラと私からは冷や汗が止まらない。


「きゃぁああ!私の着物!!ローンも終わってないのにっ!」


相手の女の人が甲高い声でそう叫ぶ。
それから私と実を睨んだと思ったら、なんと手をあげてきた。

私はとっさに実くんを庇うように抱き締める。
それから私は目をギュッと瞑って自分が殴られる覚悟をした。


『っ、』
「くそガキ!!」

パンッ

音がしたのに、未だに私に衝撃がこない。
不思議に思っておそるおそる目を開けてみれば、私と実くんの目の前には私たちの代わりに殴られた拓也くんがその衝撃で倒れこんでいた。


『た、くやお兄ちゃん、…ふぇ、』
「にーちゃぁあ!うぎゃぁあ、」


転生してからいくらか緩んでる涙腺のせいで私はウルッと泣きそうになる。
実くんなんてすでに泣いている。

春美さんはその様子を黙って見ていたと思ったら、女の人に近づいて懐から何かをとりだした。


「……どうぞ。クリーニング代です。拓也、実、名前。帰るぞ。」


実くんは拓也くんに、私は春美さんに抱っこされたと思ったら、私たちはそのままホテルを出た。

……うん?あれ?なんで私は自然と春美さんに抱っこされてるの?
おばあちゃんがお見合い席にまだいるんだけど。


「パパ…なんか口の中切れてるみたい。」
『!?』


その言葉におばあちゃんのことを忘れてガーンとショックを受ける。
どうしよう。どうしよう。
拓也くんの綺麗な顔に傷付けたら怒られる…!

私がぐるぐるとそんなことを考えていると、実くんが拓也くんを呼んだ。


「ちゃいのちゃいのとでけー。ちゃいのちゃいのとでけー。」


実くんはそう言って拓也くんを撫でる。
なんという兄弟愛…!すごくいい話だ…!
でも、私の罪悪感は消えません。


「拓也は拓也なんだからさ。ママになろうとしなくていいんだ。代わりに殴られたのかっこよかったぞ。」
『たくやお兄ちゃぁん、わたしも、ごめんなさぁい…いたかったよね…』
「名前は悪くないよ。大丈夫だから。」


春美さんが言ったことに便乗して、私は拓也くんを見ながら謝る。
すると、拓也くんは優しく笑ってくれた。


『でも…たくやお兄ちゃんの顔にきずのこっちゃう…』
「あのなぁ、今日は名前もよくやった。実を連れてきてくれたの名前だもんな。そんなに気にするな。」
「そうだよ。それに名前は実庇おうとしたよね。ありがとう。」


ポンポンと春美さんは頭を撫でて、拓也くんはそんな優しい言葉をかけてくれる。
それに泣きそうになるのを隠すように、私は春美さんの胸に顔を埋めた。


「このまま遊びに行くか。遊園地かな?」
「でもパパ、背広着て行くの?」
「いいじゃないか。今日はお前の誕生日だ。なぁ実、名前。」
「あー」
『……わたし、えのき家の人じゃないのに、たくやお兄ちゃんのたんじょうびに、いていいの…?』
「僕は名前がいてくれた方が嬉しいよ。(それに将来的には榎木家になるかもしれないし。)」
「あぁ。そうだな。(将来は拓也か実の嫁に欲しいし。)」


拓也くんと春美さんの言葉に、半分諦めながら私は笑った。

ちなみにこの日は本当に遊園地に行って、疲れ切った私は結局榎木家に泊まることになる。

……うん。私って榎木家に生まれたほうが気兼ねなくいれたんじゃないかなぁ。


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bkm
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