リンゴとハチミツ 2


実くんが年上の男の子を泣かしたのが昨日。
で、実くんが「まんま」って言葉を使って拓也くんを困らせたのも昨日。
そして今日。朝から榎木家にいた私はピクニックに行くことになった。
うん?普通ピクニックとかって家族と一緒に行くものじゃないのかな?って思ったけど言い出せず、そのままピクニック場までついてきてしまった。

まあ、それはいいんだけど。
そこにいたのは綺麗な女の人。

あれ?気まずい。


「今日一日、私のことはママだと思ってね。」
「あ、あのね、同じ会社の大谷くん。」
「『…………』」


うわぁ。私、帰っちゃダメなのかなぁ?


「まんま?」
「!」
「そう。ママでーす。榎木さん、実くん私に抱かせて。」


実くんが大谷さんをまんまって言ったとたんに、拓也くんは驚いたように実くんを見る。
驚いた、っていうより傷付いた?そんな表情。
私はというと、拓也くんの手を繋ぎながら、ぽかんとその風景を見るしか出来ない。

え、てか、帰りたいよーぅ。


*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*


まあ、私が帰られるわけでもなく木陰で大谷さんと実くんが遊ぶのをぽやーと見る。
いやぁ、私も精神年齢はいい年なわけで、ねぇ?


「拓也、名前。一緒に遊んでこいよ。」
『えっと…』


春美さんに遊ぶの疲れるなんていえない…!
どうしようと、思って拓也くんを見る。


「僕には一日だけのママなんて必要ないもん。」
『ぁ…、』


ヤバイ、この雰囲気はヤバイ。
私なんかがいていい話じゃないはず。
てか、いたくないよ。そんな家庭事情に。
逃げようとしたけど、拓也くんが私の手をギュッと握っていて逃げることは無理みたいです。ぎゃーす


「でも実は喜んでるんだぞ。だったら、実のためにも合わせてやらなきゃ。」
「……それじゃあパパは、僕の気持ちは考えないの?実のことなら考えてあげられるの?どうして…僕がガマンしなくちゃいけないの…?」


えぇー。おー。
気まずい気まずい気まずい気まずい。
てか、私超アウェイ。こんなことなら実くんのとこに行ってればよかった。


「拓也は、お兄ちゃんだろ…」
「好きでお兄ちゃんになったわけじゃないよ!実なんか大っ嫌いだ!」

パシッ

そんな音がしたと思った時には、春美さんは拓也くんの頬を叩いた。
おーまいがー。


「いい加減にしなさい、拓也。」


そして怒ったような春美さんは実くんたちのところに行ってしまった。
あれ、本当になんで私はここにいるんだ。


『たくやお兄ちゃん…、』
「名前、どうして僕ばっかり苦しまなくちゃいけないんだろう…」
『た、くや、お兄ちゃん、?』


ボロボロと泣き出す拓也くんに焦る。すごく焦る。
え、ちょ、どうしよう。


「実を嫌いなんて本心で言ったわけじゃないのに…」
『っ、だいじょうぶだよ。』
「え、?」


にこーっと拓也くんを抱き締めながら、とりあえず呟く。
だから、とにかく泣き止んでくれ。


『はるみさんだって、たくやお兄ちゃんのこと大好きだもん。それに、実くんだって、たくやお兄ちゃんが大好きなんだよ?たくやお兄ちゃんが、本気でそんなこと言ったんじゃないってわかってるよ。』
「っ、」
『んにっ、』


そう言ったとたん、私は拓也くんに強く抱き締められる。
いや、抱き締められるのは慣れたけど、力加減を考えてくれ…!苦しいんだけど…!


「名前は?」
『?』
「名前は僕のこと好き…?」
『うん!大好きだよ!しょうらいは、お兄ちゃんのおよめさんになりたいな!』


お嫁さんになりたいはまあ、嘘だけど。
幼女はこういうことを言うだろうという脳内変換です。はい。
でも、なんだかんだでいいお兄ちゃんだし?
可愛いし?料理も出来るし?子守りも出来るし?
お婿さんには最高だよね!
なので拓也くん将来はモテモテだね!
やだ、素晴らしい!

そんな幼女スマイル発動中の私を抱き締めながら、すごーく嬉しそうに笑ってた拓也くんがいることを私は知らない。


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