サファイアSide
『きゃぁっ、』
「ナマエちゃん!」「ナマエ!!」
「じゃあ、この子はちょっと借りてくよ。」
手を伸ばしたけど、あたしの手はナマエに届かなかった。
どうしてこんなことになったんだろう。
どうして…、
ーー数分前
『やっぱり、行けないんだ…』
ナマエちゃんがどうしても、って言って、あたしたちは123番道路に来た。
でも、ここにあるのはきのみ名人の家だけ。
123番道路からおくりびやままでは、通り抜けできないようになってる。
ナマエちゃんは、それを知らなかったようで、聳え立つ崖を見上げながら、悲しそうにしてた。
「ナマエはどこに行こうとしてるの?」
ルビーの言葉に、ナマエがビクリと身体を震わせる。
そんなナマエも可愛かったったい!
『ぁ、わ、わたし、ミナモシティに用事があるの…』
「あ、じゃあ、あたしたちと一緒ったい!」
『ぇ…?』
「僕たちも今からミナモシティに行くんだよね。」
「そうそう!ルビーが歩きたいなんて言うから!」
「そのおかげでナマエと逢えただろ?」
ルビーの言葉に唇を尖らせる。
確かにその通りだけど、そう言われるとなんか悔しい。
ルビーのおかげでナマエと知り合ったなんて!
「とりあえず、キンセツシティに戻ろうか。ナマエのポケモンたちも、疲れてるし。」
「それがいいっと!明日も歩き詰めになるったいね!ここで休まんと、明日倒れると!」
にっこり笑って歩き始めると、ナマエも泣きそうな、不思議な笑みを零しながら、あたしたちの後ろについてくる。
すると、突然あたしたちを風が襲った。
突然のことに目を瞑って、腕で顔を守る。
『きゃぁっ、』
その小さな悲鳴に目を開けると、そこにはダイゴさんがメタグロスの上に乗りながら、ナマエを横抱きにして立っていた。
「ナマエちゃん!」「ナマエ!!」
「じゃあ、この子はちょっと借りてくよ。」
そう言って、どこかに行こうとするダイゴさんに叫ぶ。
「なんばしよっと!ナマエちゃんも怖がっとる!」
ダイゴさんの腕の中のナマエちゃんは、青白い顔で震えていて、とても怖がってるみたいだった。
「うーん。ごめんね?僕もナマエちゃんが欲しいし、用事があるから。」
「っ、ラグラージ!メタグロスにハイドロポンプ!」
ルビーがラグラージを出して、メタグロスにハイドロポンプを繰り出そうとする。
けど、ダイゴさんは腐っても元チャンピオン。
すぐに、破壊光線で対抗してた。
ハイドロポンプと破壊光線が重なって、小さな爆発が起こる。
辺りが晴れて目を開けると、ナマエちゃんを連れたダイゴさんもメタグロスもいなくなっていた。
「っ、なんで…、」
「サファイア。そんな落ち込んでる場合じゃないよ。」
「でも…!」
「取られたら、取り返さなくちゃ。」
ルビーの言葉にハッとして、そちらを見る。
「ナマエも、嫌がってたんだ。取り返さなくちゃね。」
「……ルビーの言う通りったい…」
ああ、返してもらわなくちゃ。
あの優しい女の子。悲しい女の子。
大切にしたい女の子を。
その時、二人の瞳が淀んでいたのに、気付く人は誰一人いない。
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bkm