三月ウサギ 17


マサキさんの寝室で震える身体を抱き締めながら外から聞こえる声に耳を澄ます。


「お久しぶりです。マサキさん。」
「なんや、なんや?みんなで来るなんて初めてやん!ヒビキもゴールドも滅多に来んしなぁ。クリスもコトネも最近ご無沙汰やしな!」


明るいマサキさんの声が聞こえる。
ワザとかは分からない。
大きな声で来た人たちの名前を呼ぶ。
わたしの想像した通りマサキさんの家に来たのはヒビキくんたちだった。
ただ、クリスさんは知らない。
でも、たぶん金銀リメイク前の女主人公だと思う。

リオンをぎゅぅっと抱き締めながら涙が零れそうになるのを必死で耐える。
嫌いじゃない。むしろ好き。だけど恐い。恐いの。
“私”の記憶がみんなを巻き込んじゃうんじゃないか、って。
そんなの耐えられないから。
わたしのこと嫌いになって、わたしから離れてください。


「で、今日は何の用や?」
「マサキさんにちょっと聞きたいことがあるんスよねー。」
「マサキさんさ、名前さん知らない?」


ゴールドくんとコトネちゃんの声が聞こえる。
いつもよりコトネちゃんの声が冷たいのが分かった。


「名前ちゃん?知っとるでー。レッドとグリーンの幼馴染やろ?めっちゃかわええ子やよなぁ。」
「マサキさん、そういうことじゃないんです。」
「僕たちが聞きたいのは名前さんがここに来たか、なんですよね。」


マサキさんの言葉に恥ずかしくなりつつ、わたしはマサキさんに感謝した。
マサキさんはわたしのことをヒビキくんたちに言うつもりはないみたいで。安心した。

その次に聞こえたのは、凛としたハスキーな女の子の声。初めて聞く声だったからきっとこれがクリスさん。
で、次に聞こえたのはつい最近まで聞いていたヒビキくんの声だった。
ヒビキくんの声は声に表情…って言うのかな?それが全くなくて、まるでロボットみたいだった。


「あぁ、名前ちゃんならあんさんたちが来る前に来て帰ってたわ。」
「!…次にどこに行く、とか言ってませんでしたか?」
「知らんなぁ。…あ、でもオーキド博士がどうやーとか言うてたからマサラに行ったんやないか?」


ケラケラと笑いながら言うマサキさんがすごいと思った。
マサキさんは知らないと言いながら、四人をマサラタウンに行かせようとしてる。
マサキさんの言葉通り四人はすぐに「ありがとうございました」と言うとバタン!と扉が閉まる音がした。

コッソリと寝室の窓から四人がポケモンたちと一緒に空を飛ぶでカントー地方へ向かったのが分かった。

カチャリ、寝室のドアが開いた。


『マサキさん…』
「なんかあったんか?みんなすごい顔してたで?」
『あの、ありがとうございました…』


ぺこりとお辞儀をしてマサキさんにお礼を言う。
マサキさんがいなかったらきっとバレてたと思う。


「別にええで。ワイも名前ちゃんのこと見捨てられんかっからな。」
『ぅ…』


太陽みたいな笑顔でわたしにそう言うマサキさんに顔が真っ赤になる。
マサキさんはとてもいい人。
だから、巻き込むことになる前に早くここから出なきゃ。


『あの、ありがとうございました…!これ、ウツギ博士から頼まれたマサキさん宛ての荷物です。』
「お、おおきに!」


荷物がマサキさんに渡ったったことを確認して私をホッと一息つく。
ここからは、私が決めた道を一人で歩いて行くしかない。
誰にも頼らない。初めて私が創る道。



prev next

bkm
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -