また、あの夢……
女の子と男の子が男にイジメられてる夢…
でも今日はいつもと違かった。
「父上!×××は!×××だけには手を出さないで下さい!」
「どきなさい。×××は私のモノだ。確かにお前も私のかわいい娘…。しかし×××はお前よりも頑丈だ。お前では出来ないことが×××では出来るのだ!」
ところどころノイズのようなもので聞こえないけど、初めてその人の声が聴こえた。
男の子はいない。女の子と男だけだった。
女の子の顔も男の顔も見えない。
でも、男と女の子は親娘なんだって分かった。
「姉様、姉様。×××なら大丈夫です。×××は鬼の子なんですよ?姉様がやられるよりはずーっと平気ですの!」
もう一人、初めて見る最初の女の子より幾分背の小さい女の子。
その女の子は自分のことを【鬼の子】だと言った。
「っ!だが…っ!」
「姉様?×××は人にはない力を持って生まれましたの。でも、それはきっと姉様たちを救うためにあると思うのです。×××は姉様たちの笑った顔が見たいのですよ!」
不思議。
その子は確かに哀しいことを言ってるのに、それは当たり前だって思う。
姉様と呼ばれた女の子は苦しそうにその子の名前を呼ぶ。
それでもその子は明るい口調で「行ってきますの!」と言って父上と呼ばれた男と出て行ってしまった。
私は知っている。
その子は今から男にとても苦しいことをやられる。
それでも私は見ていることしか出来ない。
「うぁぁぁあぁあぁああ!!!!」
「あぁ…×××は本当にいい…。その身体は生涯父のためだけに使っておくれ。」
「はっはっ、ぁあぁああぁあああ!!!!」
私の頭に絶えず響く断末魔。
苦しい。苦しい。
夢の中のはずなのにそれは私を苦しめる。
やっとそれが終わったと思った時、それは姉様と呼ばれた女の子に代わった。
その女の子も苦しそうに喚く。
だけど、それはあの子ほどではなく。
私は何故だかそれに安堵していた。
「姉様!姉様!大丈夫ですか?!あぁぁあ!!」
「落ちついてよ、僕なら大丈夫だから。」
「でも、でも!」
「それよりも×××は大丈夫かい?」
「×××は大丈夫ですの。待ってください。×××が治しますの!」
「大丈夫だ…!」
そう言うとその子から不思議な淡い光が出る。
その光は女の子の身体を包み込んだ。
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空Side
『ね、えさま、』
名前はうわごとのように「姉様、姉様」とつぶやき続ける。
それにワシはイラついて畳を思いっきり殴る。
薬馬にさっさと名前を見てもらうために領主の治療をさせる手伝いをして名前を見てもらったところまではエエ。
薬馬が言うにはストレスから来る風邪だそうやけど…
「目ェ覚ませや…!」
名前は一向に目を覚ます気配があらん。
それどころか、前に入谷が言っていたように昔の記憶でも見ているのか姉様としか口に出さない。
今、名前と一緒におるんは【姉様】やない。
ワシとぽちや。
それに名前と家族なんもワシとぽち。
「名前さーん…」
『うぁぁぁああ!!いやいやいやいや!!』
「っ、名前落ち着けや。恐いことあらへん。さっさと目ぇ覚まし。」
たぶん、名前の記憶はエエものじゃあらへん。
入谷から聞いたんは、【父様】【姉様】【ぜん】その三人が名前の記憶の重要な奴ららしい。
【ぜん】ちゅー男の名前が入ってるんはイラついたが、名前は覚えてへんからしゃーない。
「空さーん…名前さんは大丈夫なんですかー?」
「…大丈夫や。心配あらへん。」
名前の頭を撫でながらぽちの頭も撫でて安心させようとそんな言葉を吐く。
すると、部屋の向こうから薬馬がきた。
「様子はどうだ?」
「目も覚めへん。ただ魘されとるだけや。」
「そうか……、」
薬馬は名前の前に座ると名前を診る。
「コイツ…、」
「どうかしたんか?」
「身体が傷だらけなのはどうしてだ?」
「っ、」
薬馬の言葉に思わず息が詰まりそうになる。
きっとそれはワシも知らんことやったから。
そのまま言葉に詰まっとると名前から魘された声やない声が聞こえた。
『ん…ぽ、ち?』
「名前さーんー!大丈夫ですかー?ずっと魘されてたんですよー。」
「あかん…!」
目が覚めた名前はとなりにおったぽちを見つけるとふにゃっと笑ってぽちに【あれ】をやろうとした。
それを止めようと手を伸ばすが間に合わず、
『ぽちちゅー。』
「?」
『えへへ。お兄ちゃんもちゅー。』
「!!!???」
『にゅーん。』
「……名前」
『あーうーちゃんなのー。うーちゃんもちゅー。』
名前の悪い癖。
寝起きには基本手当たり次第にキスをする。
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bkm