彼が彼である日



1人中庭を歩いていた綾人に話しかける声があった。


「綾人先輩!」
『あれー?まごへーだ!どうしたの?殺して欲しい奴がいるの?僕、頑張るよ!』


孫兵はいきなりおかしなことを言い始めた綾人に驚いたりせずに冷静に用件を言う。

ふと、僕もずいぶんと綾人先輩の扱いがうまくなったなと思う。
一年生のときはこの先輩が恐くてたまらなかったけど今はとても可愛い人だと思う。
真っ白なのだ。この先輩は。
死に恐怖する動物のような純粋さがこの人にはある。


「いえ、またジュンコが逃げ出したので探すの手伝ってください」
『えー今日は一年生と遊ぶ約束してたのにー?』


綾人はさも不満気に言う。
しかしなんだかんだ言って手伝ってくれるのだからいい先輩なのだ。


『あーあー赤い血がみたぁーい』


…これさえ除けば。
綾人先輩は異常に血に反応する。
何故だかは分からない。
血を見て笑ったかと思えば、思いっきり泣き始めるときもある。

それゆえに、僕たち生物委員会と一年生、それに綾人先輩の幼馴染でもある鉢屋先輩以外は全くと言っていいほど、綾人先輩には近づかない。

同学年でもある平先輩たちも近づかないんだ。よほど、綾人先輩は周りから見て異常なのだろう。

ある日、気になって何故そんなに血に執着するか聞いたことがある。
その時綾人先輩は


『私が“僕”になった原因だから。』


と、珍しく悲しそうな顔をしていた覚えがある。いつも、ニコニコしている先輩が、だ。あれはどういう意味だったんだろうか。


『あーっ!まごへー!ジュンコ見つけたよー!』
「ジュンコォォオオオオ!心配したんだぞ!」


そんな疑問はジュンコを見つけた喜びによって何処かに行ってしまった。





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