涙を溢す日



綾人が一度起きてから一週間が経った。
あの日以来、綾人は眠り続けている。
たまに、うわごとのように何かを言っているが、それがなんなのかは聞き取れなかった。

だから、だから、私たちは油断していた。




ぱちん、
僕の中の何かがハジけた音がしたんだ。
私は、僕は、


暗闇の中、目を覚ました。
寝たままキョロキョロと首だけ動かすと、すぐそばにはきり丸と平太と伏木蔵。
三人はぐっすりと寝ていて、私が起きたことに気がついていないようだった。

壊セ壊セ壊セ。

頭の中でガンガンと声がする。
僕は、楽になりたくて、苦しいのは嫌だった。


『真っ赤、まーっかな血を見よ、』


綾人はスッとそこを立つ。
静かに静かに、誰にも気がつかれないように。

綾人は自室の襖を開けると誰に気づかれる訳でもなく、自分の部屋を飛び出した。

自分の部屋を出てから裏裏裏山へ走る、走る。
走っている途中に自分の身体を見てあれ?と首を傾げる。
ブルブルと震えている僕の手。
なんで僕の身体は震えてるんだろう?
なんで僕の目からは冷たい何かが溢れるんだろう?

苦しいから?思い出したから?憎いから?


『ぅ…うっうっ……ぁあ"あ"ぁぁぁ"ぁぁ"ああ"!!!!!』


裏裏裏山に声が響く。
悲痛で、哀しくて、聞く人が聞けば愛おしい。


『やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ!!!!!!!!!』


死にたくない、生きたくない、壊れたくない、
なラならナらならナラならナラならなら!

壊ソウヨ。


『あはっ、あはははは!!!』


笑いながら、笑い続ける綾人。
もうそこには、狂気しかなくて、


「オイオイ、こんなところにいいのがいるじゃねェか!」
「お頭ァ、こりゃぁ高く売れますぜぇ。」
『あはぁ、』


そこに来た山賊は綾人に弱者でしかなかった。


*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*


ザクリザクリ、もう生きていない人だったものを綾人は切り刻む。

真っ暗だったはずの世界は、すでに明るくなってきていた。


『血…、…血。真っ赤な血…私を殺した紅…』


自分の身体を赤く紅く染める。
顔も、手も、足も、すべてを紅く。


『もういいよ。アレが悪いんだから。僕も私も悪くない。』



紅く染まった自分の手を見てポロッと涙を流す。
それが始まりのように綾人はボロボロと涙を溢した。

戻れない。私は戻れない。
こんなに血に汚れた身体じゃ戻れない。
あの女のせい。私を殺した天女と呼ばれるあの女。
私を殺して、僕を壊して、居場所を壊そうとしてる。

きり丸も平太も伏木蔵も四郎兵衛も、三之助も孫兵も、
自分の居場所を壊されて、僕みたくなろうとしてて、

三郎三郎。
ごめんね。ごめん。
私も僕も、三郎との約束守れそうにないや。

私になって、ごめんね。

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