全てが狂っている日 「なぁ、孫兵」 「なんだ?」 三年長屋の孫兵の部屋には三之助の姿。 どうやら三之助も狂ってしまったらしい。 あの日、山賊を殺したらしい綾人先輩はその細腕のどこにそんな力があるんだって思うくらい三之助と四郎兵衛を腕でがっちりと掴んで動けない二人を連れてきた。 それからだ。三之助と四郎兵衛はおかしくなった。 まあそれもそうだろうと思うけど。 先輩と平気で一緒にいられるやつらは大抵どこかおかしくなる。 別に先輩に感化されるとかじゃないと思う。 きっと狂ったやつらの居場所が先輩なんだ。 例えばきり丸。 あいつは大好きなは組に裏切られておかしくなった。今、きり丸の中にいるのはお金と綾人先輩と僕たちだけだろう。先輩にも裏切られて、先生も助けてくれなかった。土井先生はきっと遅すぎた。 平太だって伏木蔵だって、三之助、四郎兵衛も僕も。 もう綾人先輩なしじゃ生きていけない。 「なぁ、聞いてんの?」 「あ、悪い。聞いてなかった。」 孫兵の言葉に三之助はため息を一つつく。 でも、それも一瞬ですぐにまあいいか、と同じことを話し始めた。 「俺さぁ、もう綾人先輩いなくちゃ生きていけねぇと思う。」 「それは僕たちみんなに言えることだと思う。」 「だよなー。で、さ。俺、思ったんだけど、綾人先輩が天女の方に行ったらどうするよ?」 そう言う三之助の目は濁っていて、 目では絶対に綾人を離さないと語っていた。 それを見て孫兵はそんなことはあり得ないと思いながらも、三之助が思ってるであろうことを口にする。 すると、三之助は至極満足そうに笑うのだった。 「みんなで心中しようか。」 戻る |