彼が人を助ける日 「綾人せんぱーい!」 『きり丸ー!どったのー!誰か殺すー?』 「(無視)明後日のアルバイト手伝ってくれません?」 『いいよー!どんなアルバイト?』 「山賊からの護衛のアルバイトッス!」 『わかったー!』 「いやいやいや。待て待て。」 「『どうしたのー/んすか?』」 きり丸にアルバイトを頼まれた綾人。そこに疑問を感じたのか孫兵が話に割り込んできた。 「なんできり丸はそんな危険なアルバイトをしているんだ。それに、綾人先輩も簡単に頷かないでください!」 「しょうがないじゃないスかぁ…ほんとは中在家先輩たちがやってくれるはずだったんすよ。でも、先輩方は見ての通りですし。」 そう言って、きり丸が見る方向には天女を囲っている六年生たちの姿。 孫兵もそれ以上強く言えないらしく、諦めたように一つため息をついた。 「分かった…でも、僕もついていくからな。」 「ありがとごさいます!…で、綾人先輩はなにしてんスか?」 綾人はきり丸と孫兵の会話に我関せずと言うように、じっと違う方向を向いていた。 『きり丸…あれ…』 「あれ?…っ?!」 「っ!!」 綾人が示した方向には、最上級生がなにかを囲むように集まっていた。 きり丸と孫兵は驚いたように息を呑む。 そのなにかが見えた際に、井桁模様の装束が見えたから。 「綾人先輩…?」 「ちょっ、綾人先輩?!危ないっすよ!!!」 途端に綾人が孫兵ときり丸の制止の声を無視してその集団へ近寄る。 『ねえ、先輩たちなにしてるんですかぁ?』 「あ?てめぇには関係ねぇだろうが!」 綾人が話しかけると、集団の一人がイラついたように綾人を思い切り押した。 綾人はその腕を平然と掴むと捻り潰すようにしながら、話しかける。 「あ"、あ"、たすけ、」 『ねぇ、なにしてるか聞いてるじゃん。シカト?無視?』 いつものニコニコ狂ったような綾人先輩はそこにはいない。 能面を被ったように無表情な綾人がそこにはいた。 「やべっ!コイツ四年は組の狂ってる奴じゃねぇか!」 『だーかーらー!なにしてんのか聞いてんだから答えろよ。』 「ひっ…」 今にも人を殺しそうなほど殺気を放つ綾人先輩。 駄目だ、先輩を止めない、と。 「綾人先輩!もう止めてください!」 『っ!まごへ、い?』 殺気に固まって動けなかった俺より先に先輩の名前を呼んで止めたのは伊賀崎先輩だった。 綾人先輩は伊賀崎先輩の言葉にはっとしたように殺気を収める。 それに悔しく思いながらも、動けるようになった俺は綾人先輩に抱きついた。 『あはっ!きり丸もごめんねー!震えてるよ?大丈夫?』 「……俺は大丈夫です」 「綾人先輩。それよりこの人たちは?」 「て、てめぇら、後で覚えとけよ!!」 綾人は負け犬のような言葉を放ちながら逃げて行った集団をちらっと見ると、すぐに興味をなくしたようだった。 その集団が見えなくなると綾人は集団に暴行でも受けたのか、傷だらけで気絶している井桁模様の装束をまとった子どもを慈しむように抱き上げた。 『保健室、行こっか。』 一言、そう呟くと綾人は二人を置いて姿を消した。 戻る |