「なんであんたは笑わないのよ!!」ガッシャッーン


小さい頃の私は全くと言っていいほど、笑うことがなかった
だって笑う意味が分からなかったから。
母はそんな私を愛していた。表面上は。

お酒が入ると母は私を殴りながら、何故笑わないの?!、この欠落品!そんなことを私に呟いた

父はあまり帰ってくることがなく、母もそんな父を思って寂しかったんだと思う


そんな私とずっと一緒にいてくれたのは幼なじみである綱吉だけだった
他の子は私が笑わないから気持ち悪いと言っていなくなったから。
中には何も言わず私から離れる子も多かったけど、それでも私はよかった。
だって私の小さな世界には母がいて、父がいて、奈々さんや従兄、綱吉がいたから。
暖かいこの場所でずっと生きていられると思った


10年前―――
私がまだ六歳の時―…

『ただいま』

「おーお帰りな」

『お父さん……?』


私が学校から家に帰るとお父さんが私を出迎えてくれた

珍しく帰ってきたお父さんが嬉しくて私は顔は無表情のままお父さんに抱きつく


『お帰りなさい!久しぶりにどうしたの?』

「ん?あぁ、母さんに話があって、な」

『ふーん。きっとお母さん喜ぶよ!』


私の言葉にお父さんは哀しそうに笑って私の頭を撫でただけだった


「ただいまー」

「母さんお帰り」

「!あなた!」


私の言葉通りお母さんはお父さんの声がしたと同時にお父さんに抱きついた


深夜―


私が寝静まったころ、リビングから人の言い争う声が聞こえた
私はその声で目を覚まして声のする方へ近づく


『ぉとう、さん、?』


リビングで見つけたのは血だらけになったお父さんの姿だけだった。


「あら、燐花起きたのねぇ…」

『お母さん!お父さんが死んじゃうよ!』

「いいのよ?私がやったんだから」

『……………え?』


いま、なんて……?


「ふふっ、あははっ!そうよ!燐花も一緒に死にましょうね!あんたみたいな欠陥品が生きてると迷惑だしぃ?」

『や、やだ』


ジリジリと包丁を持ちながら寄ってくるお母さんから私も少しずつ離れる
そうしていると後ろは壁だけになってしまった


「さ よ う な ら」


暗転



―――
―――――


目を覚ますと私は血の海にいた


『え、あ、やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだぁぁああぁぁああぁあぁ!』


お父さんもお母さんも血だらけで原型がわからないほどぐちゃぐちゃだった


「燐花ちゃん!」

『つな、つなよし、?やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだぁぁああぁぁああぁあぁ!!』


綱吉は錯乱する私をあやすように抱きしめた
私は返り血で真っ赤なのに、綱吉も赤くなっちゃう


「大丈夫、大丈夫だから。俺は俺だけはずーっと一緒にいる。これからここに入ってくる人たちは燐花に嫌な顔しかしないけど、俺だけは燐花を信じてあげる。分かってあげられる。だから、俺以外に心許しちゃダメだよ?」


私はそれがとても甘い言葉に聞こえて、自然と頷いていた


皮肉にも私が初めて笑ったのはこの時だった




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