兵太夫の言葉になにも言い返せずに立ち尽くす。
そんな俺に呆れたのか兵太夫は教室へ戻って行った。
「っ!なんなんだよ…」
イラつく。
そう思って壁をドンっと思いっきり殴りつけると、その場にしゃがみ込む。
てゆうか兵太夫が皐月ちゃん奪うって、なに。
アイツ皐月ちゃんのこと好きだったのか?意味わかんねぇ。
「あー!イッラつく!!!」
そう叫びながら頭をガシガシ掻く。
なんで俺がこんな悩まなきゃいけねぇんだよ…
「団蔵、うるせぇ。」
「はぁ?…なんできり丸がここにいんだよ………」
声が聞こえた方に顔を向けるときり丸がちょうど俺の死角となる場所からダルそうに顔を覗かせていた。
俺の呆れたような疑問にきり丸はサボり、と一言答えると俺の隣に座った。
「…兵太夫との、聞いてたか?」
「ばっちし。」
きり丸はそう言って親指を立てる。
それにイラつきながらも俺は言いたいことを吐き出した。
きり丸はそれを黙って聞いてくれる。
すべてを吐き出し終わるときり丸も話し始めた。
「兵太夫の言うことももっともだろ。」
「なんでだよ」
「だってよー、団蔵は皐月ちゃん好きなんだろ?でも、皐月ちゃんには彼氏がいるかもしれない。んで、団蔵は諦める。それって変じゃねぇ?」
「………どこが?」
きり丸の言葉のどこに変なところがあるか分からない。
それが普通なんじゃねぇの?
「んー俺も上手く言えねぇけど、例えば団蔵は馬術をやってるだろ?」
「あぁ。…って、それとこれになんの関係があんだよ。」
「まあ聞けって。今度馬術の大会があって、団蔵は馬術を一生懸命練習すんだよ。でもその大会には優勝確実だろう、って奴が出てんだよ。そしたら団蔵は練習しないで大会に出るか?」
想像してみる。
優勝確実だって言われてる奴がいるけど、まだ俺には希望があんだよな?
そしたら俺は
「練習する。」
「だろ?それと一緒だろ。皐月ちゃんが男いるつった訳でもないんだから、団蔵にも希望はあんじゃねぇの?」
きり丸の話を聞いてみると確かにそうだ。
なんか目から鱗。
抱き合ってたのは転んだからかもしれねぇし。
「きり丸!ありがとな!」
「おー。お礼は学食一週間奢れ。」
「わかった!」
「あ、後、兵太夫には土下座して謝っとけよ。」
「わか、…え?」
「…がんばれ。」