『兄さん!』
「ん?彰人じゃないか!どうしたんだ?」
『兄さんに会いたくて!』


ニコッと可愛らしい笑顔で大石に笑いかける一人の少年。

大石彰人。
正真正銘の大石秀一郎の弟。


「あれ?でも、彰人は今日委員会じゃなかったけ?」
『えー?委員会は明日だよ?兄さんはおっちょこちょいだなぁ。』


ちなみにこの少年。


「うげっ、なんで彰人がいるにゃ?」
『あっれー?菊丸先輩だぁ!お久しぶりですね!……この駄猫。』


とても、腹黒である。


「にゃっ!大石ぃ!こいつ、俺のこと駄猫って言ったにゃ!」
『え?…そんな…、菊丸先輩はボクのことが嫌いなんですか…?ボク、そんなこと言ってないのに!』


ウルウルと瞳いっぱいに涙を溜めて、菊丸と大石を見る彰人。
その姿はまるで女の子のようだった。


「うにゃっ、」
「英二ー、あんまり彰人を虐めるなよ。仲良くやらないとダメだからな。」
「大石ぃ…!騙されちゃダメにゃ!」


そういって大石の腕を引っ張る菊丸にギリリと唇を噛みながら睨みつける彰人。
やがて、ニッコリと笑ったかと思うと、菊丸の腕をギュゥウと掴んだ。


『あ!そーだ!ボク、菊丸先輩にいーーっぱい聞きたいことあったんだぁ!ね、兄さん、菊丸先輩借りてもいーい?』
「あぁ。でも、練習が始まるまでには帰ってくるんだぞ。」
『はーい!…じゃ、菊丸先輩一緒に来てねぇ?』


にーっこり笑いながら、菊丸の腕を痛いくらいにつかむ彰人に菊丸も否定の言葉は出せなかった。



『なぁ、俺の兄さんに変なこと吹き込まないでくれねぇ?この駄猫。』


菊丸に正座させ、自分はベンチに偉そうに座りながら、鼻で笑う。


「ひっ、お、おまえは大石の前と俺の前では性格変わりすぎにゃー!」
『うっぜ。おまえが尊敬されるくらいいい先輩だと思ってんのかよ。このクソ猫。』
「お、俺だって先輩なんだぞ!」
『ねぇよ。』


菊丸の必死の反撃も虚しく、彰人の前では意味をなさなかった。


『俺の兄さんに気安く触んじゃねぇよ。この駄猫。カス。』
「にゃっ、」
『てめぇなんかが兄さんに迷惑かけていいと思ってんのか?あぁ?』


目の前に正座して涙目になる菊丸を鼻で笑いながら、悪人顔負けの笑みを浮かべる彰人。

その姿はまるで、


『俺の時間をてめぇなんかに当ててんだなら、まさか土下座でもしてくれるよなぁ?』


悪魔であった。


「にゃーっ!大石ぃぃいい!!!!」

『ちっ、逃げやがった。』


この空気に耐えきれず、涙を流しながら大石に助けを求めて逃げ出した菊丸に、今度はどうやって菊丸に脅しをかけてやろうかと悩むのである。


「大石ぃぃいい!!」
「ん?どうしたんだ英二。」
「彰人がぁぁぁあ!!!」
「はは。仲良くやれよ。」
「うわぁぁぁあんん!!!!」


腹黒は腹黒ゆえに、周りへの牽制は完璧なのである。


『兄さんが俺に気付くわけないじゃん。猫はどこまで行っても駄目猫か。』


小さい頃からずっと一緒にいた兄さん。
ずっと一緒にいたのにバレてねぇんだから、菊丸が言ってもバレるわけねぇよ。

そして彰人は至極楽しそうに笑った。


大石彰人。
好きな人は兄さん。

現在の趣味は、


駄目猫(菊丸)いじりである。


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