夢の中で、一人の女の子が泣いてた。


【もう、止めよう…、】


そう言って、ポロポロと涙を流す女の子。
それは、確かに私が知ってる顔。

私が“私”になる前の“私”だった。



『っ、』
「わっ、」


パチリと、目が覚める。

すると、目の前には濡れているタオルを持った宍戸くんと鳳くん。


『な、んで、』
「覚えてねぇのか?」


宍戸くんの言葉にコクリと頷く。
でも、頭の中はそれどころじゃなくて、

夢の中の出来事が私の思考を浸食する。
なんで、私は【止めて】なんて言うの?
今さら、止めることなんてできないのに。


「跡部と話してる時に倒れたんだってよ。で、今は休憩中の俺と長太郎が面倒見てたんだよ。」
「大丈夫ですか?魘されてましたよ。」


彼と話してたのは覚えてないけど、そう言われると、頭がガンガンと痛いし、耳鳴りのようなものがする。


『そ、うですか、』
「無理、すんなよ。」
「そうですよ!僕たちもいるんですから、頼ってください!」
『っ、』


宍戸くんと鳳くんの言葉に、叫びたくなる。

無理をしない?頼る?そんなの無理に決まってる。
だって、私は一人でなくちゃ。
私は、跡部心愛じゃなかった時の記憶を裏切りたくない。

この世界を受け入れてしまったら、私は本当に一人になってしまう。

もう、顔も思い出せない友達に縋ってる。


『…ごめんなさい。もう、練習に戻って大丈夫です。』
「いや、でもよぉ、」
『本当に、大丈夫ですから。』


痛む頭を我慢して、笑顔で二人を突き放す。
一人にさせて。
私は一人でいたいの。






だって、裏切りたくない



 
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